第33話
リザードマンの肩口に振り下ろした斧槍を引き抜き、アッシュが後ろを振り返る。
先程までいた10数匹のリザードマンは全て倒され、早いものは既に黒い粘液へと変貌し始めていた。
夜が明け、水場を出て3つ砂丘を越えると、周辺は白い結晶に覆われた、固い地面へと変わった。
カーディフの東に広がる、大陸で最大の塩の産地。塩湖と呼ばれるこの場所は見渡す限りが広大な岩塩地帯だった。
「地表に湧き出す水はすぐに蒸発するんだそうです」
湖というのに水がないことを不思議に思った一向に、ライアンが説明した。
「今はこの程度ですが、ひどい時期には空気が歪んで見えるほど暑くなりますからね。でも暑さが和らぐこの時期、日によっては薄く水が張ることがあるんです」
その為この辺り一体は塩湖と呼ばれることになったという。
そんな説明を聞いていた時、ファングが耳を動かし塩湖の彼方を睨み付けた。
皆もファングが睨む方向を見つめると、黒い影が一つ、二つと増えており、その数は最終的に10を越えた。
二足で歩行するその影を、初めは商隊か冒険者の一団かとも思ったが、ファングの反応を見るに、あれは敵なのだと判断した。
歩いてきていた影はこちらに気がつくと走りだし、近づくにつれそれがリザードマンの集団だと分かった。
「構えろ」
ガレアの号令でアッシュとバルドが前に出て、ガレアに並ぶ。
ディーンはその後ろにつき、ヴェラとライアンは後衛にまわった。
リザードマンの持つ武器は様々で、中には人間が使うような鉄製の物も見受けられた。それは前回の戦いで冒険者が退散する際に放り捨てたものだった。
世に物が出回り豊かになる反面、それを大切に扱わない者のせいで面倒が増える。
アッシュはその、鉄の剣を持つリザードマンに狙いを定め、駆け出した。
手前を走るリザードマンに斧槍を振るい道を開けさせる。盾を構えるリザードマンには自分の盾をぶつけ、爪を引っかけて引き摺り倒した。
そうして敵を撹乱しながら一番奥にいたリザードマンを倒し振り向くと、既に戦いは終わっていた。
「やっ、やった」
ライアンの顔が紅潮している。
「俺も、やりました」
アッシュは見ることが出来なかったが、リザードマンの一匹をライアンが倒したらしい。
「いい突きだったよ」
ディーンがライアンの震える肩に手を乗せる。
リザードマンの身に付ける粗末な防具の隙間を上手く狙い、急所を突いたのだ。
これなら自分達が戦っている間、リザードマンの接近を防ぐことができる。そう思い、ディーンはライアンへ頷いてみせた。
その後も2度、同じ規模のリザードマンの集団と出会い、これを撃破した。
その時にもライアンは2匹のリザードマンを倒し、更に自信をつけていた。
「リザードマンの数は100を越えるという報告がきていました」
一度目の討伐作戦の際には200を越えるリザードマンがこの地に蠢いていた。
それを50数名の冒険者で半数ほどまで減らしたが、蜥蜴の王に攻撃が通じず撤退を余儀なくされた。
そして今もまた、リザードマンはその数を増やしているが以前ほどではなく、その数は150ほどであろうと組合員は言った。
「リザードマンが周回してるのなら、先に数を減らした方がよくねぇか?」
そんなバルドの提案に皆が同意した。
水場は近くにあるし、食糧は往復8日分積んである。とはいえ実際は、万が一を考え8日分よりも余裕を持って積まれているし、冒険者の彼らは食事を節約する術を身に付けているため、1日や2日はどうとでも凌ぐことができる。
一行はその日1日、蜥蜴の王のいるリザードマンの棲みかの手前で荷馬車を止め、遭遇するリザードマンの集団を倒すことに専念した。




