第12話
「それで、林に隠れて一体何をしていたんですか?」
二人のやりとりを微笑みながら見ていたディーンが女冒険者に尋ねた。
「おっと、そうだった、本題に入ろうか。さっきあんたも、って言ったね?ならあんたら二人も冒険者ってことでいいかい?」
女冒険者は赤い髪を邪魔そうにかきあげながら、冒険者登録証を首に掛ける。
「ええ、僕達も冒険者です。今は依頼を受けてこの先の石窟を目指しています」
そう言いながら今度はディーンが登録証を見せた。
「ということはアーマードからここへ?」
「今日の朝、アーマードを出ました」
「ここまで来る途中何か変わったものを見なかったかい?」
「これは何の為の質問なんだ?」
アッシュが焦れて問う。
「ああ、すまない。人をね、探しているんだよ」
女冒険者は頭を掻きながら答えた。
「それも依頼ですか?」
「いや、そうじゃないよ。むしろあたしの探してる相手が、依頼主なんだよ」
手間の掛かる依頼主でさ、と女は続ける。
「約束の時間になっても現れないから探しに出たのさ。何か面倒事に巻き込まれたのかもしれないからね。それでまぁ、道中あんたらを見かけたから、斥候としてあたしが様子を見に来たってわけ」
ここで女はまたカラカラと笑った。
「いやぁ、でもまさか狼が一緒だとは思わなかったよ、あの気配の消し方はあたしも見習わないといけないね」
そう言って女冒険者が笑いながら立ち上がる。
ファングはというと褒められたことが嬉しかったのか、尻尾をゆさゆさと大きく揺らしていた。
「さて、それじゃ仲間のところに戻るよ。あたしの名前はヴェラ、冒険者やってれば、またどこかで会うこともあるかもしれないね」
二人もそれぞれ名乗り、別れを告げる。
それじゃあね、とヴェラが林の中へ戻ろうとした時、不意にアッシュ達へ振り返った。
「そうそう、もしもこの先ニールって商人を見かけたら伝えといておくれ。依頼を無視してどこほっつき歩いてんだって、ヴェラが怒ってたってね」
それを聞いた二人は一瞬顔を見合わせ、慌ててヴェラを呼び止めたのだった。




