第20話
ライアンが頭を下げ続けたことで、彼はなし崩し的に仲間に加わることとなった。
では細かい作戦をと話したところ、バルドからは「そんなものはいらん」と一蹴され、結局今日のところは決行日だけを決め解散することにした。
「砂漠の真ん中での戦いだ。来るものを倒して逃げるものも倒す。それだけだ」
そう言いながら笑って去っていくバルドを、残された4人は曖昧に笑いながら見送ることしかできなかった。
「それじゃあ明日1日は準備に費やして、明後日出発ということで」
集まる場所はこの酒場の前。5人が揃い次第出発することに決めた。
「本当にすみませんでした。俺、精一杯頑張りますから、よろしくお願いします」
ライアンは最後にまたアッシュ達に頭を下げ去っていった。
「さて、あたし達も宿屋を探さないとね」
そう言ってヴェラが荷馬車へ振り返えると、アッシュがファングに骨付きの生肉を与えているところだった。
「ああ、そうだね。すっかり待たせちまったからね」
冒険者組合から酒場に向かい今まで、ファングはずっと荷台で待っていたのだ。
「町の中に入れることでかえって不自由な思いをさせてしまったと思って、酒場で買ってきたんだ」
アッシュから肉を受けとると、ファングはアッシュの腕に鼻を押し付けてきた。
「怒ってはないみたいだ」
それを見てアッシュは安堵し、御者台に座り馬を歩かせた。
酒場からあまり離れては不便と考え、なるべく近くの宿を探していたところ、うまい具合に空きのある宿屋を見つけた。
宿の主人にファングの存在を伝えたところ、初めは首を縦に振らなかったが、アクルゥに貰った印章を見せるとたちまちその態度が急変した。
「どのような縁のある方かは存じませんが、その狼様のお世話、こちらで引き受けさせて頂きます」
狼に様をつけ、あまりにも主人が畏まるためアッシュ達の方が印章の効果に驚いた。今度アクルゥに会ったときにはきちんと礼を言わねばならない、アッシュはそう、心に決めた。
宿代を節約するために、3人で1つの部屋を借りる。最後までアッシュは渋っていたが、砂漠を進むだけの物資を買う為にここで余分な金は使えなかった。
部屋に荷物をおいて武具を外す。せっかくなので町を見て回ろうと3人が宿を出たとき、後ろから聞き覚えのある声が自分達を呼んだ。
「アッシュ、ディーン。それに一緒にいるのはあの時挨拶をし損ねたお嬢さんじゃないか」
満面の笑みで宿から出てくる男、それはアッシュとディーンの養父であるカーマインだった。




