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イシュト大陸物語  作者: 明星
傀儡の王
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第18話

若い冒険者はライアンと名乗り、カーディフの南の村の出身だと言った。まだ幼さの残るその冒険者は、もしかしたらアッシュよりもまだ若いかもしれない、

「さっきの3人も俺と同じ村の出なんです。普段はあんな風じゃないんですけど、ここのところ色々あって、本当にすみません」

ライアンは今もアッシュ達の横で立ったままだ。とりあえず椅子に座ることを勧め、話を聞くことにした。

「俺、金が必要で、あの3人を頼って村から出てきたんですけど、思うように稼げなくて」

もともとライアン達の集団は、量をこなすことで稼ぐ方法を取っており、比較的安全な行路での護衛や、品物の町までの輸送、そういった依頼が中心だった。

しかし数ヵ月前、今では蜥蜴の王と呼ばれる魔物の出現によって、仕事の量は半分ほどまで減ってしまったのだと言う。

「俺達は砂漠から町まで岩塩を運んだり、町から出る行商人の護衛で食ってました。でもあそこに魔物が居着いてからはもうさっぱりで」

そんなだから、そもそも俺達は蜥蜴の王討伐に呼ばれるような冒険者じゃないんです、とライアンは照れたように笑った。

「自分より若い冒険者が、自分よりすごいことをしようとしているのが面白くなかったんだと思います。本当にすみませんでした」

重ねて謝るライアンを止め、アッシュがライアンへ聞いた。

「もう謝らなくてもいい。それで、すでに仲間がいる君が、どうして俺達のところに?」

「はい、さっきも言ったとおり俺、金がいるんです。それで、皆さんの仲間になれば俺も蜥蜴の王を倒す依頼に参加できますよね」

当初より蜥蜴の王討伐を達成した場合の報酬は、人数分で平等に分けることになっている。今回のように参加者の少ない状態で見事打ち倒せば、その報酬は莫大なものとなるはずだ。

「もちろん、俺だって戦います。お願いします!俺を仲間にいれてください!」

ライアンは机に額を擦り付ける勢いで頭を下げた。


「久しぶりに会ったと思ったらこの状況はなんだ?」

ライアンへの返事に困っているとき、不意にアッシュ達へ声を掛ける人物が現れた。見たことのある大きな体で、聞いたことのある声。

「バルドさん!」

よお、と笑うその男は沼地の第3中継基地でオーガと戦う為に稽古をつけてくれたバルドだった。

「どうしてこんなところにいるんですか?」

隣から椅子を引っ張ってくるとバルドはどかっと座った。

「ん?俺も蜥蜴の親玉を倒しにいくんだよ。組合の使いが男2人と女1人の冒険者が待ってるって言うからもしかしたらと思ったが、やっぱりお前達だったか」

「怪我は、ないんですか?」

今目の前にいるバルドは健康そのものに見えたが、聞かずにはいられなかった。

「ああ、沼地の件を聞いたか。あれには驚いたぜ」

そう言ってバルドは灰色のオーガが現れた夜の話を始めた。


いつもと変わらない一日が終わり、基地の皆が眠る時間。突如現れた灰色のオーガは手当たり次第に基地を破壊し始めた。

「警鐘がなってな、武器を持って駆け付けたときには既に戦いは始まってた」

灰色のオーガの動きは素早く、数人で囲んだかと思えば容易く崩される。攻撃は宙を切り、戦いの場は灰色のオーガのいいように展開していた。

「よく分かります。俺も一瞬でやられましたから」

アッシュの脳裏にあの日の戦いが過る。手も足も出ず、一方的にやられた戦いだった。

「そうだな、お前達はよく知ってるよな。実際に戦って思ったが、あれを相手にお前が生き延びれたのが本当に不思議だよ」

バルドの不思議に思う理由が、今ならディーンとヴェラには分かる。カティナが止めたのだ、アッシュが殺されるのを。

「それでまぁどうにか追い払うことができたんだが、その時には基地はぼろぼろ。建て直すべきかの判断を仰ぐために撤退することになったというわけだ」

「オーエンさんは、大丈夫だったんですか?」

「おう、そういえばお前達知り合いなんだったな。オーエンからも聞いてたぜ」

そこまで言ってバルドは言葉を止める。

「あいつは冒険者を引退することになるんじゃねぇかな」

少しして飛び出した言葉がそれだった。


「俺が到着するまであいつが指揮をとっててな。自然と一番前で戦うことになるわけだが、オーガの実力も分からないうちから無茶したようでな」

バルドが駆け付けた時、オーエンの右腕は肘から下がなかった。

周辺に被害を出さないため果敢に攻めたオーエンだったが、灰色のオーガはオーエンが思う以上に強く、また戦う為の準備も出来ておらず、あっさりと掴まれた腕はそのまま引き千切られたのだった。

「俺がアーマードを出るとき、あいつはまだ治療中だった。沼地での応急処置では止血くらいしかできなかったからな。だからこの先どうするつもりなのか、俺には分からん」

それで、とバルドは沼地での話を打ちきり、ライアンを見た。

「こいつは誰なんだ」

突然話を振られたライアンは、バルドの厳つい顔を直視できず、ただ黙ってうつむいてしまった。

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