第11話
「だから、あたしは盗賊なんかじゃないって」
赤い髪の女は胡座をかいて座り、不貞腐れている。
自分は盗賊ではないと言う女の格好はというと、動きの邪魔にならず音をたてないよう計算して作られた黒染めの革製の服だった。
「いや、でもどう見ても」
そう言い淀むディーンに向けて、女は懐から何かを取り出す。
「ほら、これ、知ってるかい?」
そう言って突き出したのは二枚の金属の板を合わせたもの、冒険者の登録証だった。
「あんたも冒険者だったのか」
既に相手に興味をなくし、隣で眠るファングを撫でながらアッシュが言う。
「そういうこと。あたしの役割は斥候。だからこの格好なのさ」
わかったかい?と言いながらファングに近づき抱きつこうとする。
しかしその気配を察知したファングは起きてスルリとそれをかわした。
「あらあら、こんないい女の抱擁を避けるなんて、つれない男だね」
カラカラと笑い女冒険者はまた地面へ腰を落とした。
「ファングは、雌だ」
アッシュがボソリと呟く。
「え?そうなのかい? にしても雌にファングって名前はどうなんだい?」
ねぇ、と女冒険者はカラカラと笑いながらファングに語りかける。
「ファングは、牙が自慢なんだ」
実際は子供だった頃のアッシュの乏しい語彙が原因だったが、ファング自身もその名前は気に入っている。
だからファングは女冒険者の言葉を無視して、再びアッシュの傍で丸まったのだった。




