第13話
あれからアクルゥは、ヴェラと2人になることをうまく避け、追求を逃れていた。
数日が経ち、アクルゥが近付いてきた目的は今も分からないままだったが、特に何事もなく一行はカーディフへと進んでいる。
「いやぁ、本当だとも。俺が見た一番大きな化石は足の裏ほどの大きさの虫だったよ」
荷台ではアッシュとアクルゥが楽しそうに話しており、更にそこにはディーンの姿もあった。
「石の話の何が面白いのかね」
御者台には珍しくヴェラが座り、トボトボと馬を歩かせている。
アクルゥは話が上手かった。今までの体験を面白おかしく話し、見つけた出土品を実に興味深いもののように語った。その為男達が仲良くなるのに、そう時間は掛からなかった。
そして今、正確には朝出発してからずっと、荷台ではアクルゥによる化石講座が開かれているのだ。
アクルゥの話を熱心に聞くアッシュとディーン。しかしヴェラはディーンにアクルゥが何かしらの目的を持って自分達に近付いてきたことは伝えてある。つまりディーンは見張りを兼ねているのだ。
「ヴェラの考えすぎってことはないのかい?」
一行は街道の端に荷馬車を止め昼食をとり、少しの間馬を休ませる時間をとった。
何かあればすぐに対応できる距離を開け、ヴェラとディーンがアクルゥのことを話している。
「意図的に近付いてきたことは間違いない。そしてその目的を言わない以上警戒するに越したことはないじゃないか」
自然に声を潜めるような話し方になってしまう。
「最近僕達に声を掛けてくる冒険者が増えただろ?」
魔人を倒し竜を見つけ、海へと辿り着いた。時間が経つにつれその話が広まり、アッシュ達はいろんな場所でいろんな人から声を掛けられることが増えていた。
「彼もそんな人達と同じなんじゃないかな?」
チラとアクルゥへ視線を向けると、こちらに向かって笑って手を振ってきた。
「バレてる、のかな」
ディーンは苦笑する。
「もちろんこの後も気を付けるよ。でもカティナの今までのやり方だったら、こんな分かりやすい近づけ方はしないんじゃないかと僕は思うんだ」
「まだ疑われてるのかな?」
荷物を荷台に乗せて、アッシュとディーンが焚き火の後片付けをしていた時、珍しくアクルゥからヴェラへ話し掛けてきた。
「アクルゥさんが何か隠してる間は、そうだね」
アッシュに気取られたくないヴェラはそっけなく答える。
「困ったな。俺は本心から道中を楽しいものにしたいと思ってるんだがね」
「なら正体を明かしなよ」
アクルゥと話ながらも意識はアッシュへと向ける。
「それもまた困った話だ。でもこれだけは言える、俺は君達の敵じゃあない」
自分を真っ直ぐに見つめるアクルゥに、ヴェラは意識をそちらへ向けるしかなかった。
「一つ、聞いていいかい?」
どうぞ、とアクルゥが促す。
「アクルゥさんの前に、突然黒い髪の女の子が現れたことはないかい?」
ヴェラの言葉にアクルゥは眉をひそめる。
「なんだい、それは」
そう言いかけてアクルゥは、いや、と自分の言葉を否定して続けた。
「そんな女の子に出会ったことはないよ」
こんな時、目で何かが分かればいいのにと思いながら、ヴェラはアクルゥを見つめたが、アクルゥの表情からは何も読み取れなかった。
「分かったよ、そこまで言うなら信じるよ」
ヴェラは大きく息を吐くと苦笑いを浮かべて言った。
「実のところ人を疑い続けるのにも疲れてきててね」と。




