第10話
「それがギムの爺さんの言ってたおまけってやつかい?まったく、あの爺さんもいい性格してるよ」
王都を出て街道を進む。
以前アレティアへ向かう為に左折した分岐を今回は真っ直ぐに進みカーディフを目指す。
今はまだ誰もギムの作った武具は身に付けておらず、荷台の片隅に積まれている。
その中に1つ、ヴェラにとっては見たくもない武器があった。
「ああ、もともと俺は斧を使うことも多かったから、ありがたいと思ってる。ギムさんは新しく柄を作って、片手用にしてくれたんだ」
そう言って持ち上げたそれは、羊頭の魔人が使っていたあの斧槍だった。
「軽くて硬いんだろ?それは聞いたけどさ、あたしはそいつに一度殺されかけてる訳だからね、いい気はしないさ」
王都を出る前、鍛冶屋へ寄ってギムに別れを告げた際に渡された魔人の斧槍。
刃の部分は竜の素材と同じように軽く、硬く、鋭い。ただしこちらは正体は分からないが金属であるのは間違いないとの事だった。
その刃が付いた斧槍はもともと両手で扱う為に柄の部分が長く、本来盾を構えて戦うアッシュにとって扱いの難しい武器であったが、ギムは元の柄を外し、アッシュの体格に合わせ、片手で扱える長さの柄に付け替えた。
ヴェラの事情はギムも知っていたが、「生きてるんじゃから気にするな」とアッシュの不安そうな表情を跳ね退けた。
「すまない、ヴェラ。ヴェラが気に入らない気持ちは分かるが、竜を倒すには並みの武器では駄目なんだ」
どうか分かって欲しい、とアッシュは本当に申し訳なさそうな顔で頭を下げた。
そんな顔をされてはヴェラもこれ以上のことは言えない。
「分かったよ、分かったから頭を上げなよ、おバカ。まったく、いいかい?あたしはか弱い女の子なんだからね、その武器でしっかり守っておくれよ」
「ああ、任せてくれ」
ヴェラは自分の軽口にも真面目に答えるアッシュを見て、カティナがアッシュのどこを気に入ったのか少しわかった気がしたが、気にしないことにした。
街道を進む途中、道を外れたところで馬を休めている男を見つけた。その男はディーンの操る荷馬車を見つけると大きく手を振って近づいてくる。
「やぁ、どうも。君達はもしかしたらカーディフへ行くのかい?」
口髭を蓄え上品な服を着ている男は30代だろうか。こんな場所に一人でいるのが似つかわしくない雰囲気の男だった。
「ええ、そうです。何か困り事ですか?」
ディーンの言葉に男は大喜びで答える。
「そうなんだ。すまないが俺も一緒に乗せていってくれないか?」と。




