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イシュト大陸物語  作者: 明星
傀儡の王
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第6話

「実はね、さっきカティナに会ったんだ」

そう言って視線をヴェラへと向ける。

ヴェラの表情は変わらない。しかし若干青ざめた顔色になり後退りをする。体を反転させ正面を向くと無言でそのまま歩きだした。

「ちょっと、ヴェラ?」

慌ててディーンも歩き出す。

「嘘じゃないんだ、本当なんだよ」

ディーンの声にヴェラは反応しない。

1つ目の通りを横切り、その先の路地へと入っていく。

「本当に、会ったんだ、この場所で」

その言葉を聞いたヴェラはピタリと止まり、前を向いたままディーンの方へと後退してきた。

「ヴェラ?」

「それはなに、お化けだったわけ?」

ヴェラは前を向いたままだが、ディーンのすぐ目の前まで下がってきている。

「いや、生きてた。死んでるように見えるかって聞かれたけど、ちゃんと生きてたよ」

その言葉でようやくヴェラはディーンへと向き合った。

「でも竜に殺されたんだろ?」

「うん、殺されたのは確かだよ。でも壊されたって言った方が正しいかもしれないとも言ってた」

はぁ、とヴェラが大きな溜め息をついた。

「次から次へと訳の分からないことばかりだよ。それで?カティナは何て言ってたんだい?」

「沼地じゃなくて砂漠に向かえって。蜥蜴の王と戦った方が面白いからって。本当はこんなことしたくないけど、時間がないとも言ってたよ」

「よく分からない上に、ずいぶんと人を好きに使おうとしてんだね。他には?」

ディーンはヴェラにカティナと話したことを出来るだけ正確に伝えた。


自分は魔物ではなく、自分の正体を話せば物語が望まない方向へと向かうため話したくないと言い、その物語とは「あの子」の望みで自分達を英雄へと導くためのものだということ。

そして、村を竜が襲ったのはやはりカティナが原因だったが、しかしその原因が何なのかまでは分からない。カティナは「自分はあの子の願いを叶えただけだ」と言っていたことを。


「その、あの子っていうのは」

「うん、たぶんアッシュのことだと思う」

それ以外にあの村でカティナと知り合って生き残っているものはいない。

「じゃあ、あいつは何を望み、何を願ったんだい?」

「それが、分からないんだ。ほら、アッシュはそんなにたくさん話をする方じゃないだろ?それは子供の時もそうだったから」

だから、あの頃のアッシュがカティナに向かって自分の望みや願いを話すとは思えなかった。

「あいつは一体何をしてそんなに気に入られちまったのかね」

やれやれと言わんばかりに大きく息を吐き出すと、ヴェラはディーンへと改めて向き合った。

「で、だからって、どうしてあんたはカティナの言うとおりに動いたんだい?」

突然現れたカティナに混乱したのは分かる。それはカティナと話すことで更に酷いものになったのだろうということも想像できる。しかし、カティナの話を断ることもできたはずだ。カティナの面白くないという言葉など無視してしまえばいい。

「もしも僕がそうしたら、カティナの言葉を無視してしまったら、もしかしたらカティナは直接アッシュの前に現れるかもしれないと思ったんだよ」

そんなことになっては、それこそめちゃくちゃになってしまう。アッシュのカティナに対する想いはディーンのそれとは比べ物にならないからだ。

「なるほどね、確かにそんなことになっちまったら、どういった形であれ面倒なことになるのは間違いないね」

「うん、だから僕はカティナの言うとおりにした。もともと西に行くか東に行くかの違いだったからね」

ディーンはヴェラに気取られないよう極力平静を装って言う。

カティナに言われた、あなたは自分で決められない、という言葉、その言葉に逆らうように、さも自分の考えで動いたかのように、ディーンは振る舞った。

そしてそのまま続ける。

「カティナは去り際に、またねって言ったよ。一体何者なのか、何が目的なのか分からないけど、たぶんまた僕の前に現れるときが来ると思う」

その時は今日よりも話を聞き出そうと、ディーンは心に決めた。


話してくれてありがとう、そう言うヴェラにディーンも礼を返し、2人は食堂へと向かった。


その帰り道、アッシュに砂漠へ向かうことをどう納得させようかというディーンの言葉に「そんなのは力づくだよ」とヴェラはカラカラと笑って答えた。

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