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イシュト大陸物語  作者: 明星
傀儡の王
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第5話

「ずいぶんと遅かったが、何かあったのか」

ディーンが食堂に夕食の配達を頼み宿へ戻ると、ヴェラはベッドの上で寝息をたてていた。

隣のベッドの上で居心地悪そうにしていたアッシュは、ディーンの姿を見てほっとしているようだった。

「うん、さっき宿屋の前で冒険者組合からの使いに会ってね」

ディーンはここに戻るまでに考えた嘘を口にする。

「その人が言うにはバルドさんもオーエンさん達もみんな無事だそうだよ。怪我はしたそうだけど今はもうアーマードまで戻ってきてるみたい」

安心した顔をしてみせる。そんな自分が気持ち悪い。

「そうか、よかった。なら先にアーマードで皆から話を聞かないとな」

アッシュは自分の話を簡単に信じてくれる、その気持ちを踏みにじっている自分に腹が立つ。

「その事なんだけどね、バルドさん達の無事が分かったことだし、この後は東の、カーディフに向かうことにしないかい?沼地は奥まで進むと時間が掛かってしまうからね」

それでも笑顔を作り続けないといけない。

「急にどうしたんだ?さっきまで灰色のオーガを倒すって言ってたじゃないか」

早く、早く了承してほしい、ディーンはそれだけを願った。

「うん、僕も最初はそう思ったんだけど、第2拠点から灰色のオーガのいる場所まで距離があるだろ?その間に必要な物資を買うお金が今の僕達にはないことを思い出してね」

「ほら、ロゼッタのお墓でだいぶ使っちゃったから」と、こんな時にロゼッタの名前を使う自分が許せなくなってくる。

「しかし」

「まぁ、いいじゃないか」

アッシュの言葉を遮ったのは、寝ていると思っていたヴェラだった。

「まずは蜥蜴の王を倒してお金を稼ぐ、そのまま南下し赤い竜を倒して、その後西に向かって沼地へ入る。これでいいんじゃない?ディーンが自分から提案するなんて珍しいし、どのみち第3中継基地はもう破棄されたんだ、急ぐことはないさ」

ヴェラがそう言ったところで部屋の扉が叩かれ、食堂から夕食が届けられた。

ヴェラの助け船にディーンは内心胸を撫で下ろしながら食事を済まし、「食器を返してくるよ」と不自然な今の自分を気取られないよう急いで部屋を出た。部屋の中は息が詰まりそうで、今は外の空気を胸一杯に吸い込みたかった。


部屋を出て深く息を吸い込む。すると部屋の中で一言二言話し声が聞こえ、ヴェラが部屋から出てきた。

「あたしも行くよ」と食器の半分をディーンから取り上げ、ヴェラは何食わぬ顔で階段を降りていった。

前を歩くヴェラの顔は見えず、そして何も言わない。

暗い路地を進み、1つ目の通りに差し掛かった時、ヴェラは足を止め振り返りディーンへと近づいた。

「それで、ほんとは何があったんだい?」

ディーンより少し背の低いヴェラが下から覗き込むような形で顔を近づけてくる。

「気付いていたの?」

ディーンはヴェラの目を見ることができず、その視線は暗い路地の方へと向いていた。

「ああ、気付いてたよ。あんたの心臓の音がうるさくてね。あんな音、魔物と戦ったって鳴りゃしないだろうさ」

で?とヴェラは引かない。

「お姉さんに話してみなよ。あたしはさ、聖女様の力を引き継いで死なない人間になっちまったんだよ?これ以上驚くことなんてありゃしないさ」

ヴェラがそう言っておどけて見せる時は、相手に気を使っている時だとこれまでの旅で分かっている。

ディーンはそんなヴェラに申し訳なく思い、さっきあった出来事を話すことにした。もともと、こんな話を自分の中だけで処理をするなど、無理な話だったのだ。

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