第2話
宿に戻る途中、ヴェラがマーヴィンの家に行くと言い出した為、一旦別れ、後から宿で合流することにした。
聖女の、ロゼッタの日記をどうするかはマーヴィンに任せたとはいえ、それをどう扱うのかが気になるのだろうと2人はヴェラを見送った。
「僕たちがこの後どうするのかを決めたとして、でも結局はそれも、何者かの意志がそうなるように仕向けたことになるのかな」
昼下がりの王都は前回来た時ほどではないにしろ、それでもやはり賑わっている。
道を行き交う人を見て、店で慌ただしく働いている人を見て、ディーンはそれぞれの生活がいつもと変わらないように見える。何をし、何をするべきなのかを自分達で考え、動く。当たり前の日常が目の前で繰り広げられている。
しかしロゼッタの日記に書かれていた、何者かの存在。その存在が自分達のこれまでの旅に、何らかの形で介入していたことは確かに感じていた。
「どうだろうな」
そう答えるアッシュはディーンほどその存在を気にしていないように見える。
「そいつが何を企んでいるにしても、俺達が赤い竜に近づいているのは確かだ。俺の邪魔をしないのなら、そんな存在はどうでもいいことだ」
今回ギムを追い北の山脈へ入ったことで、意外なところから竜を見つける方法が手に入った。
ヴェラが引き継いだ聖女の力だ。
山を降りる途中食糧を確保する為にヴェラと共に狩りに出た2人は、ヴェラの目がことごとく獲物を捉えるのを見た。
そしてヴェラは言った、ある程度近くまでいけば森の中に棲む竜の場所も見つけられるかもしれないと。
赤い竜の棲む原生林はあまりに広く、狂暴な生き物も多い。
その為赤い竜を見つけるのにどれだけの時間がかかるか分からなかった。その事実がアッシュ達の目的を漠然としたものにしていたのだ。
しかし、ヴェラが引き継いだ力によって、目を使い、耳を使い、五感全てを使うことで赤い竜の棲みかを見つけられるかもしれないという。
「なんで分かるかって?なんだろうね、勘?」
狩りを終え、ギムとマーヴィンの元へ戻る前にヴェラに聞いた反応がそれだった。
「あの子は自分の力を予知ではないって言ってたけど、あたしもそう思うよ。音の波っていうのは今もよく分からないけどね、でもまぁ、分かるんだよ。無意識に感覚がすごく研ぎ澄まされてる感じ、なのかな」
ではその力は戦いにおいてはどうなのかとアッシュが聞いた。ロゼッタの日記には力によって冒険者の攻撃を避けていた記述があったからだ。
「それは、試してみせた方が早いね」
そう言うとヴェラはディーンに掛かってくるよう言った。
ヴェラの力に興味があったディーンはそれを受け、ヴェラに向かって二度三度と刀を振るうが、それをヴェラは簡単に避けた。
本気できなよ、とヴェラがディーンを挑発する。
それに乗って少しずつ速度をあげ、遂に本気で振るうこととなった三手目が、ヴェラの首筋に当たる直前で止まった。
「とまぁ、こういうことさ。どんなに見えててもあたしがそれに反応できなければ負けちまう。だから無敵ってことはないね」
そう言いながら軽く切れた首筋を一撫でしている間に、その傷はきれいに消えていた。
「とはいえ負けるってこともないんだけどね」
そんな自分を、ヴェラはカラカラと笑っていた。
ヴェラの力で赤い竜を見つけられるかもしれない。それは3人の次の旅の目的に繋がった。武具を揃え、場所を特定し、遂に赤い竜に辿り着けるのだと。
しかし王都の冒険者組合でレジエスから聞いた話が3人の目的を揺るがしたのだった。
自分達が倒せなかった灰色のオーガによって被害が出ている。大掛かりな討伐作戦にも関わらず蜥蜴の王は生きている。
冒険者としてそれらを見過ごしたまま、自分の目的だけを果たすことに戸惑いを覚えるのだ。
だからこそ話し合うことにした。ヴェラが戻るのを待ち、3人でこれからどう動くのか、それを話し合うことに。




