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イシュト大陸物語  作者: 明星
残穢
217/408

20頁

少し落ち着きました。

日記に記す作業は頭の中を整理し、心を落ち着けられる。だから私は気が触れずにいられる。



拠点を出ることにしました。この先更に人が来た時、私の存在が知られた時、人は必ず正体を探ろうとするでしょう。そんな目に合いたくない。好奇の目になど晒されたくはない。

幸いここには天幕と衣類がたくさんあります。これらを持ち出し、私は誰も人の来ない場所へと移動します。



一人で天幕を運ぶのはとても大変な作業でした。ようやく組み立てた天幕の中で日記を書いています。

昔、何者かに差し出された器の中身を飲んだ直後、空を飛んだときに視えたどこまでも続く水溜まり、海。

誰にも知られず過ごすなら海の近くがいいと思い、ここまで来ました。何も変化のない日常が続くでしょう。でも今はそれでかまいません。





久しぶりに筆を取ります。

とても驚くことがありました。明け方海の方から大きな水の音が聞こえたので、私は何が起きたのかと外へ出ました。

何も聞こえない、静かな朝。しかし、また大きな水の音が聞こえました。

その音から頭に浮かぶのはとても大きな魚。魚なんて、せいぜい私の腕ほどの大きさのものしか知りません。しかしその音の主は湖を渡る舟よりも大きい。

こんな生き物がすぐ近くにいただなんて、私は少しも気が付きませんでした。

私は海まで降り、飛び込みました。凄かった。海の中には無数の命が存在していたんです。




私はこの力を与えられてから全てを知った気になっていたんだと思います。結果が視えるから過ちを犯すこともなく、危険な目に会うこともありませんでした。だから私は勘違いをしていたんです。私が皆を導かなくてはならないと。私がやらなければいけないと。

でも違いました。私には視えていないことの方が多かったんです。

先のことが分かることで人は努力を怠りました。先のことが分からないからこそ勇者達は竜に恐怖しました。私は視えているばっかりに大切なことが視えていなかった。人の弱さや、私を旅に誘ってくれた彼の気持ちを。


竜が魔物の増加の原因だとし、私はそこに人々を導き死なせてしまいました。

私だけが生き延び、死ねないのは、その過ちを償う為なのかもしれません。

たから私は、それを受け入れようと思います。私は、死んでいった方々に赦されるまで生きていくことにします。たとえそれが永劫訪れないことなのだとしても。

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