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イシュト大陸物語  作者: 明星
残穢
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16頁

七十六日目

拠点に戻り王国兵へ状況を説明し、どうするかを相談しました。

結果として崖に足場を作り材木を組み上げ、崖にくっつくような形で拠点を作ることとなりました。

人を休ませることと、崖の上に送ることが主な目的で、拠点に保管する物資の量はそれほど多くありません。一つ目と二つ目の拠点に待機していた王国兵全てを呼び集め、崖の拠点は大急ぎで作られることとなりました。



八十六日目

山から木を切り出し、拠点を支える柱が作られています。今回勇者の補助の為に召集された王国兵の中には大工や鍛冶屋等の職人が多い為、戦うことには不馴れでもこういった作業になると彼らの力はとても役に立ちます。



八十九日目

本日、崖の下で天幕を広げ拠点の完成を待つ私達の間に緊張が走りました。

竜が、頭上を旋回し、飛んでいったからです。

空気の乱れと聞きなれない羽音に竜の姿が視えた直後、突如吹く風と共に現れた竜は幾度かの旋回の後、崖の向こうへと飛んでいきました。

初めてその姿を見る勇者達は、その速さに、その大きさに、何もできず、ただ空を見上げるのみでした。



九十日目

勇者達の雰囲気が少し変化しています。

勇者、等と呼ばれていますが元はただの村人であったり、せいぜい狩人や衛兵の出であるような者達です。

それぞれが祈りにより何らかの力を授かり、今ここにいますが、その心は昔と変わりません。

圧倒的な存在の竜を見て、怖じ気づくのも仕方のないことです。

とはいえ、同じものを視ている私はそこまでの恐怖を感じていません。竜を倒さない限り大陸には魔物が蔓延ったままなのです。果たすべき目的を前に立ち止まるわけにはいかないのです。



九十一日目

皆を集め話をしました。竜は確かに強大な相手であるということ、しかし私にはその竜を倒す彼の姿が視えているのだということを。

臆している時ではなく、戦う力を与えられた私達が今やるべきことは竜を倒すことなのだと、私は彼らに分かってもらいたかったのです。

私の両隣には彼とあの方がいました。彼は微笑み頷き、あの方は私の言葉を自分の声で再度皆に伝えてくれました。

私には視えています、あの竜が倒されるその時が。



九十三日目

あれから竜が飛び立つ気配がありません。私たちの姿を確認しているにも関わらず、そのままにしているのは何故なのでしょうか。姿を見せれば私達が去ると思っているのでしょうか。私達は恐怖に打ち勝ちました。決して逃げません。



九十八日目

拠点に壁と天井が出来た為、天幕をたたみ拠点の中へと移りました。

物資は滑車を使い、井戸の要領で上へと引き上げるのだそうです。足りない部品を調達するために町まで馬をとばした兵士の方には本当に頭が下がります。

さて、一足先に杭だけを使い崖を昇った斥候の話によると、崖の上は石の露出する平原となっており、その先の山の斜面に巨大な洞窟が見えるとのことでした。

間違いありません、あの竜は、悪の根源は、そこにいます。そこで私達を待っているのです。



百三日目

竜との戦いに向けて体を休めるもの、訓練を行うもの、そしてお酒に酔っているもの。各々が後悔しない為の日々を送っています。

戦いが始まれば勇者達にも犠牲が出るやもしれません。危険が視え、それを伝えても、全てを防げるわけではないのです。

竜を目の前にしてこのような時間が流れていることがとても不思議ですが、今は皆の思うように自由に過ごしてもらいたいと思います。



百七日目

拠点が完成し、崖の上まで梯子が取り付けられました。

明日、遂に私達は竜を倒すのです。

先程まで皆で語り合っていました。自分の祈りが通じた時のこと、そしてこの戦いの後のことを。

改めて話を聞くと、皆やはり最初は魔物に立ち向かう力を欲したことが始まりでした。家族を、友を殺され、住む村を破壊され、生活を脅かされ、皆祈り、求めたのです、それらに立ち向かう力を、守る力を。

そして与えられたのは剣や盾、槍等の武具。他にも恐怖を感じない力という変わったものもありました。

いえ、一番変わっているのは私のこの力ですね。

あの日、全てを失い途方にくれていた私に与えられた力。そのお陰で私は生き延びることができ、こうして仲間もたくさんできました。

全てはこの力のお陰です。

彼に誘われた大陸を巡る旅は、これらの力を与えてくださった神を探す為の旅にするのもいいかもしれません。



百八日目

今から出発します。

この続きを書くために、そしてその続きを明るい内容にするために、私達は出発します。

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