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イシュト大陸物語  作者: 明星
残穢
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15頁

四十八日目

久しぶりにのんびりとした日々を過ごしています。

周辺に危険は潜んでおらず、王国兵や勇者達も今は気を張る必要がなく穏やかです。

以前私が、今の私をどう思うか聞いたからでしょうか、彼が花を摘んできてくれました。

出会って長い時間一緒にいるのに一度も贈り物をしたことがなかったからと。

私は自分が成長していないことを確かめたかっただけなのですが、きっと気を使わせてしまったのですね、申し訳ないことをしました。

その時に、竜を倒したあとどうするつもりかと聞かれました。私は何も考えておらず、答えに詰まっていると彼はじゃあまた一緒に旅をしないかと、誘ってくれました。

魔物がいなくなり平和になった大陸をめぐる旅、それはそれでとてもいいもののように思えました。

だから私は、はいと頷きました。

彼の声からはとても嬉しそうな雰囲気が伝わってきました。

とても優しくて、頼りになる兄のような存在。竜を倒したあとも、もう少し妹のように甘えさせてもらえそうで嬉しかったです。

だけど私が父のような、私のお父さんとは全然違いますが、頼りになる父という存在のような、あの方も一緒に旅に誘いましょうというと彼は了承しながらも少し残念そうでした。なぜでしょう?



五十三日目

二つ目の拠点がほぼ出来上がったとの報を受け、私達は一つ目の拠点をあとにしました。

次の拠点に到着すると周りからは驚きの声が上がり、私にもその理由が分かりました。

山道を抜け少し開けた場所に出ると、横の谷に吹く風の音が歪なものへと変わります。その音で私の頭に浮かんだ絵は、半分ほど崖からはみ出て、谷の上にせり出した拠点でした。

人が休めるほどの強度は十分に確保されているとのことですが、物資を運び込むことを考え、今も拠点を支える柱を補強しているとのことです。

少しここで休んだ後、三つ目の拠点の候補地までの安全を確保するために出発します。



五十五日目

拠点を出発して少しした頃、地面から低い音が聞こえるようになりました。共に進む勇者達は不気味がり、竜の仕業なのではないかと囁きあっています。

私はあの方に来てもらい、この音の正体が視えたと、それは地面の下を通る川から聞こえているのだと伝えました。

あの方は大きく頷くと声を張り上げ竜を挑発する言葉を口にしました。あの方の声が山間に響き、その声が消えても地面の音は変わらない調子で鳴っています。そしてあの方は、地面から聞こえる音は自然の音であり竜の仕業ではないと皆に言いました。

その言葉で勇者達は再び前に進めるようになったのです。

あの方の声はとても強く、とてもよく響きます。戦いの最中、私が視た危険を皆に伝える役目はすっかりと彼のものになっています。だからこそ、今回皆の士気を取り戻せるのは彼しかいなかった。私はそう思います。



六十五日目

岩のような皮膚をもつ巨大な蛙に、翼の生えた蜥蜴。鋭い鉤爪をもつ走る鳥に、硬い毛をもつ大きな狒狒。魔物の姿も今まで視たことのないものばかりで、戦う勇者達も大変な思いをしながら、それでもここまで辿り着きました。

体に感じる僅かな熱が、鼻をくすぐる僅かな匂いが、この崖の先に竜がいると確信させます。

しかしここにくるまで他に道はなく、どうにかこの崖を登らなければ竜のもとに辿り着くことができません。

一度拠点へ戻り、王国兵の方々へ相談することになりました。


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