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イシュト大陸物語  作者: 明星
老齢の鍛冶師
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第57話

「さてと」

とヴェラが体を起こす。

背中も髪の毛も血だらけでひどい有り様だった。

「よかったのか?」

アッシュがヴェラの手を取り立ち上がらせた。

「まぁ、なっちまったものは仕方ないさ。それにあんただったら言えるかい?ようやく死ぬことが許された女の子に、あたしは先に死ぬけどあんたはこれからも頑張って生きてね、なんてさ」

あ、あとね、とヴェラがアッシュの肩を拳で叩く。

「女の子の胸ぐらを掴むようなこと、しちゃ駄目だよ」

そう言って今度はアッシュの胸ぐらを掴むとそのまま近づき「心配かけて、悪かったね」と言った。


「ディーンも怪我はないかい?」

アッシュの後ろで目を赤く腫らしたディーンへ声を掛ける。

「うん、僕は大丈夫だよ。それよりも、聖女の亡骸はどうしようか」

聖女は今、仰向けに寝かされている。

「俺は、きちんと埋葬してあげたい。あの子の亡骸をまた一人で山に残すのは可哀想だと思うんだ」

「そうだね。分かったよ、そうしよう」

ディーンが聖女の亡骸を背負う。

拠点までの道のりはヴェラが「分かる気がする」と言うので任せることにした。

武器をなくしたアッシュは魔人の持っていた斧槍を拾う。

そして皆が歩き出そうとしたその時、先程聖女がいた岩の上に一冊の本が置かれていることに気が付いた。

「これは」

アッシュはその本を拾うとパラパラと頁をめくる。

「聖女の日記、なのか」

そこには北の竜との戦い以前からつい最近までのことが書かれていた。

初めの方だけ字が違う。後半は恐らく聖女の文字だが、初めの方の文字は誰のものか分からない。聖女の代わりに誰かが書いてあげたのだろう。

唯一あの場所から聖女が持ってきた日記、アッシュはそれを一先ず服の下にしまった。


「なんだか二重に見えるね」

ヴェラはそう言いながら空を飛ぶ鳥を睨んでいる。

「聖女の力のせいなのか?」

「んーたぶんね。飛ぶ鳥の少し前にもう一羽見えるんだけどさ、あれはきっと鳥がどう進むのかが視えてるんじゃないかね」

「他に異変はないか?」

聖女の血が一瞬赤黒くなったことが気に掛かっていた。

「ああ、大丈夫だよ。傷もすっかり治っちまったし、あれだけ血が流れたのに頭もすっきりしてる」

いや、それが異常なのか、とヴェラは一人納得している。

「まぁこの力ってやつが今後何の役にたつかは分からないけどね、とりあえずは無事拠点に戻れたみたいだよ」

木々の間を抜け、目の前に見えるのは竜の洞窟。そして少し遠くに崖の拠点が見えた。

「ギムさんはどうなったのだろうか」

ここに来るまで周りのことを気に掛ける余裕がなかった。しかし拠点が近づき思い出されるのは、背中に斧槍を振り下ろされ倒れたギムのこと。

生きていてほしい、そう願いながら三人は崖の拠点へと向かった。

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