第49話
沈黙の気まずさにアッシュが二杯目のお茶をもらい飲んでいると、ディーンとヴェラがようやく目を覚ました。
訳が分からないまま二人も同じようにお茶を受け取り啜っている。
「でさ、これはどういうことなんだい?」
一息ついて十分休めたと判断したヴェラが口を開いた。
「では、こちらへ」
そう言って法衣の人物は杖を手に取り立ち上がると「足元が悪いですからお気をつけ下さい」と暗闇の中へと歩きだした。
法衣の人物の身長は低く、恐らくアッシュの胸辺りまでしかない。その体の小ささで、暗くゴツゴツした洞窟の中を器用に進んでいく。
「あたし達はあんたほど早く歩けないんだけどね」
暗闇に目が慣れてきたとはいえ足元は石だらけだ。下手をすると足を挫いてしまいそうでアッシュ達は慎重に進んだ。
先を行く法衣の人物が立ち止まり、アッシュ達の到着を待つと今度は壁の間に出来た割れ目の中を登り始めた。
どこが飛び出ていてどこが滑るのか、まるで見えているかのように法衣の人物は進む。逆にアッシュ達は壁に手を付き、足場を確かめ、互いに声を掛け合いながら何とか登っている状態だった。
そうこうしながらしばらく登ると、割れ目の先に光が見え始めた。法衣の人物は既に割れ目から外に出ている。アッシュ達も急いで登りその光の中に出る。
辺りは夕暮れ、しかし洞窟から出たアッシュ達にとって今見える夕陽は今まで見たどれよりも眩しかった。
「足元の悪い中、ご苦労様でございました。では、こちらへ」
法衣の人物は全く疲れていない様子で割れ目のある崖を迂回し上に向かって歩き始める。
「ここは一体どこなんだろうね」
ディーンが言う。
「だいぶ流されてしまったからな。もしかしたら大陸の端の方まで来てしまったのかもしれない」
雑草の生い茂った坂道を登る。歩き続け、火照った体に吹く風が気持ちよかった。
坂の上では法衣の人物が待っていた。皆無言のまま黙々と坂を登りようやく見えたその景色は、夕陽を反射して赤く光る見渡す限りの水。
「これが、海です」
三人は呆気にとられ、何も言わずただ黙って海を見ていた。




