第48話
身に纏う空気そのものが熱く、翼を大きく動かすと熱風が全身を襲った。
その巨体からは想像もできない軽やかさで地を蹴り宙に舞う。飛び立つ背中にはあの棘が針鼠のように生えている。
あっという間に地平線の向こうへ姿を消すと、夕暮れの空は更に赤く染まった。
熱く、明るい。
「夢?」
目を開けるとアッシュは焚き火のそばで横たわっており、現状を理解するまでに少し時間が掛かった。
体を起こして周囲を見渡す。全身が重く、その動きは自分が感じるよりもずっとゆっくりだった。
ディーンとヴェラ、二人も同じように焚き火のそばで横になっている。
そして、もう一人いた。焚き火を挟んだ反対側に白い法衣を着た人物が座っている。
「温かいお茶が入っています。どうぞ、お召し上がり下さい」
それは男とも女とも区別のつかない、酷くしゃがれた声だった。頭には法衣から伸びる白い頭巾を被り、お茶を差し出すその手にも白い手袋を嵌めている。深く頭を下げている為頭巾の中の顔が見えず、ますます正体が分からなかった。
「ここは?」
差し出すお茶には手を伸ばさずアッシュが問う。
「お二人が目を覚ましてからではいけませんか?今はどうか、疲れた体を休めてください」
その声の得体は知れないが、それでも敵ではないと判断し、アッシュは立ち上がるとディーンを避けお茶を受け取った。
お茶に口を付け辺りを見回すと、焚き火に照らされたこの一帯だけが明るい。ここはまだ地下なのだ。
「あなたが、助けてくれたのですか?」
アッシュの問いにその人物はただ頷くのみで答える。
もとの場所に戻りお茶を啜る。こういう時の会話が苦手なアッシュは、早くみんな起きてくれとそれだけを願う。
そんな落ち着きのないアッシュの姿を見て、頭巾の下の顔は小さく微笑んでいた。




