第46話
沼地で戦った灰色のオーガほどの速さはなく、力も弱い。
しかし魔人の振るう斧槍がそれを補っていた。
そして盾で防いでいるうちに気付いた。魔人の持つ斧槍も普通の武器ではないと。
「盾が削られる!」
受ける角度を、力を調整し攻撃を弾き、逸らすが、魔人の一撃一撃を受けるごとに盾の表面に亀裂が入っていく。
アッシュが攻撃を凌いだ時を狙ってディーンが仕掛けるが、黒剣の攻撃は斧槍によって防がれた。
「あの武器、普通の金属じゃないよ」
何度かの攻防の後、少し距離をとってディーンが言った。
「とにかく、あの2人を逃がすことが先決だ」
そう言ってアッシュは盾を前面に押し出し魔人へと突撃した。その後ろをディーンが走り攻撃を加える。
「今だよ、走りな!」
ヴェラの声を合図にギムとマーヴィンが走り出す。
「若いもんに任せて年寄りが逃げるだけというのは気に食わん」
いつの間に取り出したのかギムはその手に弩を持っていた。走りながら魔人の頭を狙い、矢を放つ。
鋭い音をたて真っ直ぐに魔人の頭に向かって飛ぶ矢が直撃すると思われた直前、魔人は頭を動かすと歪な角でその矢を弾いたのだった。
「ばかな」
ギムが立ち止まってしまった一瞬、魔人はギムへ向かって飛ぶように走った。
「ギムさん!」
アッシュの叫びに我にかえったギムが魔人に背を向け走り出す。しかし魔人の方が早かった。
逃げる背中に振り下ろされた斧槍が、地面にギムを叩きつけた。ギムは倒れたままピクリとも動かない。
見下ろす魔人の背中にヴェラの投げた短剣が刺さる。
「あんたの相手はこっちだろ!」
怒りに任せて身に付けていた短剣を次々と投げる。
しかしヴェラに気付いた魔人はそれを簡単に避け、弾き、地面へ叩き落とした。
魔人は走ると、再びアッシュ達へと襲いかかった。
「このままじゃ盾が壊れる!」
アッシュの持つ盾は魔人の攻撃により限界を迎えており、凪ぎ払われた斧槍の一撃を受けたとき、盾はついに半分に割れてしまった。
凪ぎ払われた斧槍はそのまま振りかぶられ、アッシュの頭をめがけて振り下ろされた。
地面に斧槍が落ちる音。倒れるアッシュ、そしてアッシュに覆い被さるようにヴェラがいた。
「当たってないかい?」
魔人の斧槍があたる寸前、ヴェラがアッシュにギリギリのところで飛び掛かったのだ。
「ああ、すまない。大丈夫だ」
急いで起き上がろうとした直後、洞窟の中に低い音が響き地面が揺れ始めた。そして魔人の振り下ろした斧槍を中心に地面が崩れ、それに気がつく時間もないほどあっという間にアッシュとディーン、ヴェラ、そして羊頭の魔人は落ちていった。




