第43話
「しかしこれは一体、どういうことなんじゃ」
竜の近くまで来たとき、周囲に止める暇も与えずギムが走り出した。
目の前で横たわる竜は今にも動き出しそうであった。
「こいつは驚いた。竜というのは死んでも朽ちていかないのか」
マーヴィンがそう言いながら竜の体を見て回ると、あることに気がついた。
「アッシュ君、こっちへ」
呼ばれて向かうと、マーヴィンが竜の切り落とされた指の欠片を手にとって見ていた。
「これは、君の持っていたあの石に、よく似ていないかい?」
そう言われてアッシュは恐る恐る指の欠片を手にとった。
固く、冷たい、石のような感触。
アッシュはヴェラとディーンを呼んだ。
「似てると思うんだ」
「死んでも腐らない生き物の肉か、可能性は高いね」
「そうだ、水に入れてみようよ」
ディーンの言葉でアッシュは洞窟の窪みにたまった水にその欠片を落とした。
少しの間反応を待つ、しかし、何も起きない。
「違う、みたいだね」
「まぁでもさ、死んでも腐らない生き物はいるって分かったんだ。それだけでもすごい発見じゃないか」
その時、自分を見るアッシュの視線にヴェラが気付いた。
「ん?なんだい?」
「いや、アレティアの時も思ったんだが、石の正体がはっきりしないことをあまり気にしてないように見えたから」
アッシュの言葉でヴェラはアッシュから目を背けた。
「いや、あたしだってあたしなりに落ち込んでるんだよ。たださ、こういうこと言うと冷たい女だと思われるかもしれないけどさ、その、こうやってあんた達と旅をすることがけっこう楽しくてね」
ニールや仲間のことを忘れたわけじゃないよ、とヴェラが頭を掻きながら続けた。
「だからさ、今はまだもう少しこうやって旅をするのもいいかなって思ったんだよね」
そんなヴェラの言葉にアッシュは照れ、ディーンは微笑み、マーヴィンはニヤニヤしている。
アッシュ達がそうしている間にギムは一人、竜の周りをうろうろしていた。
「何してるんですか?」
と、ギムを見るとどうやら辺りに散らばる竜の残骸を集めているらしかった。
「ほれ、これを持ってみろ」
そう言って竜の切り落とされた翼を指差した。
「これをって、無理じゃないですか」
アッシュがそう思うのも無理はなかった。切り落とされた竜の翼は骨を含み、その大きさは家の屋根ほどあったからだ。
しかしアッシュの言葉にギムはただ黙って立っている。仕方がないと翼に手をかけ持ち上げると、それは酷く簡単に浮いた。
「どうじゃ、軽いじゃろ」
ギムは悪戯が成功した時のような笑みを浮かべて続けた。
「翼だけではないぞ。爪も、牙も、鱗も、全部軽いんじゃ。そしてな」
そう言って爪の上に石を思い切り落とした。
「ほれ、この通り、無傷じゃ」
石の下から拾い上げた竜の爪に少しの傷もなかった。
「手記には勇者の持つ神から授かったと言われる武器以外はその体に傷をつけることができなかった、と書かれていたよ」
マーヴィンが言う。
「これを使えば軽くて固い、最高の装備を作ることができるぞ!」
ギムは大喜びでまた竜の残骸を集め始めた。
「でもさぁ」
そんなギムにヴェラが言う。
「そんなに固い素材をどうやって加工するつもりだい?」
ヴェラの言葉に、浮かれていたギムの表情がとたんに曇っていったのだった。




