第42話
洞窟の前まで来ると、その大きさに改めて驚いた。
「ご先祖さん達王国兵は洞窟の入り口から勇者達の戦いを見ていた。だから奥はそれほど深くないはずだ」
とはいえ太陽の光は洞窟の入り口から少し先までしか照らしておらず、その奥は暗い。
だが更に奥は上から光が差し込んでおり、その周辺を広く照らしていた。光の真ん中には巨大な岩が見える。
洞窟からは以前にも聞いた低い音が鳴っている。
「ここにも地下水脈があるみたいだが、こうも暗くては安心して進めないな」
「うむ、少し待っておれ」
ギムがそう言って鞄から折り畳まれた何かを取り出した。
「これは、照明器具でな、持ち運びに便利なように、折り畳み式にしたんじゃよ」
言葉と言葉の間にパチンパチンと器用に組み立て、火打ち石を使い中の油に火をつけた。
アッシュがそれを受け取り先頭に立ち洞窟の中へと入る。アッシュの後ろにはディーン、そしてマーヴィン、ギムと続き、ヴェラが殿をつとめた。
洞窟の中は寒く、水脈の音だけが響いていた。ときおり水が首筋に滴り落ちてくる。
アッシュは足元に注意しながら、前方の光に浮かぶ巨大な岩を目指して足を進めた。
途中、誰も話さない。
その時突然先頭を歩くアッシュが止まった。
「どうしたの?」
魔物でも現れたのかとディーンが黒剣を抜く。
アッシュは答えずただ真っ直ぐ前を見て立ち尽くしている。
そうこうしているうちに後続の3人もアッシュ達に追い付いた。
3人が追い付いたとき、アッシュとディーンは呆然と立ち尽くしていた。訝しみながらその視線を追うと、理由が分かった。
近づくまで岩だと思っていたそれは、竜だった。光に照らされる広場の真ん中で巨大な体を投げ出して灰色の巨大な竜が寝ていた。
アッシュ達は息をするのも忘れてただ立ち尽くしている。今にも動き出しそうなその竜を見ていると、しかしそれは寝ているわけではないことに気がついた。
竜は微動だにせず、呼吸の音も聞こえない。そして竜の体の周辺にはいくつもの残骸が落ちていた。それは翼であり、爪であり、牙であった。また、鱗であり、棘であった。
「死んでいるのか」
「ふむ、そのようじゃが」
「まるで生きているかのようだね」
意を決して前に進む。近づくにつれ、竜の体は王城の周辺に立ち並ぶ屋敷と変わらないほど大きいと気付いた。
ジャリと足元で嫌な音がなる。照明を向けると黒い炭のようなものが辺り一面を覆っていた。
「これはきっと」
「いい、聞きたくない」
言い掛けたマーヴィンの言葉をヴェラが遮った。




