第39話
「少し拠点の中を見てくるよ」
そう言ってマーヴィンは一人拠点探索へと出掛けた。まだ日が落ちるまでに時間がある、拠点へ入る際にファングが警戒していなかったこともあり、周りもそれを止めなかった。
「竜の死骸、残っているといいですね」
ディーンが言う。
ここに来るまでアッシュ達はギムからいろんな話を聞いた。
鍛冶屋の一族として生まれ、小さな頃からしごかれてきたこと。父の代から鍛冶屋を利用してくれていた冒険者が依頼の最中に命を落としたとき、ギムはその娘を妻にしたということ。
「それまで何度も会っておってな、お互いに憎からず思っておったんじゃ。少し卑怯な気はしたが、結婚を申し込むなら今じゃと思ってな」
そう言ってギムは笑っていた。
その後、娘が生まれ、鍛冶の仕事も順調だったという。
「しかし儂は時代の変化についていけんかった」
自分が認める材料が手に入るまではどれだけでも時間を掛けた。信頼のできる性能の装備を作るため意匠は必要ないと考えた。
しかしそういった考えは徐々に通用しなくなっていった。
発掘技術の進歩により流通する鉱石の量は増え、武器や防具の値段が下がることで使い捨てのような使い方をする冒険者が増えてきた。
そして武器や防具に流行りが生まれ、冒険者達は流行りの意匠が施された物を求めるようになった。
「儂はそれを冷めた目で見ておった。本当に良いものは必ず理解してもらえると高を括っておった」
ギムは遠くを眺めていた。
「しかしその結果が、こんな有り様じゃ。儂が頑固だったから、いや愚かだったからじゃな。矜持を選んだ結果、病に倒れたあいつを助けてやれる金もなく、娘を嫁に出すこともできなんだ。儂の我儘に家族皆を巻き込んでしまった」
ギムが目頭を押さえる。
「もうこれ以上娘に迷惑をかけたくないと家を出たが、結局また、儂の我儘のせいで娘を悲しませてしまっておる」
儂はどこまでも愚かだと、ギムは言っていた。
「竜の素材が手に入れば、ギムさんは大陸で一番有名な鍛冶屋になれます。まだまだこれからですよ」
ディーンの言葉にギムはまた目頭が熱くなるのを感じた。
「そうじゃな。爪の一本、鱗の一枚でも構わん。死ぬ前にもう一度、満足のいく物を作りたいものじゃ」
その時、拠点の奥からマーヴィンの皆を呼ぶ声が聞こえた。




