第33話
「わざわざこんな場所まで来させて悪いとは思っておる。だが儂は王都に帰るつもりはない」
すまんがお前達だけで帰ってくれ、そう言うとギムはまとめた荷物を担ぎ上げた。
「どうする、諸君。ご老人は竜の死骸を見つけるまでは帰りたくないそうだよ」
懐から手記を取りだしマーヴィンが言った。
「そして偶然ここには竜の死骸に辿り着く為に必要な情報がある」
「なんじゃそれは」
マーヴィンの持つ手記にギムが手を伸ばすが、それはサッとかわされてしまう。
「俺の一族は歴史を調べるのが好きでね。これは俺のご先祖さんの書いた有難い手記というわけだ」
そう言ってマーヴィンも立ち上がる。
「ご老人、あなたが竜を求めて彼の地へ向かうというのなら、俺も一緒にいこう。俺もここには探したいものがあってきたんだ、ここまで来て何もせず帰りたくはない」
「どうしても、王都に戻ってはもらえませんか?」
アッシュの問いにギムは頷いた。
「それなら、俺も行きます」
「まぁ、そうなっちまうよね」
やれやれとヴェラが溜め息をつく。
「ああ、この先には羊頭の魔人と呼ばれる魔物がいる。二人だけで山に入るのは殺されにいくようなものだ」
羊頭の魔人、その言葉を初めて聞いたギムにディーンが説明している。
「そんなことをして、俺は後悔したくない。皆でちゃんと王都に帰って、笑って話したい」
「そうだね、いいさ、乗り掛かった舟だ。最後まで付き合おうじゃないのさ」
あんたはどうするんだい?とディーンに尋ねる。
「もちろん僕もついていくよ。アッシュが無茶をしないように見ていないといけないからね」
ディーンは笑って答えた。
結局全員で山脈の奥を目指すことになり、今日のところはこの拠点で一夜を明かすことにした。
床に転がる包みを開けると、中には衣服や鞣した毛皮の類いが入っていた。環境がよかったからか、経過年数のわりにそれらの保存状態はよく、火を使えない拠点の中で彼らはそれを使って夜の寒さを凌いだ。




