第28話
翌日、朝から物資を買い込み荷馬車へと積み込むと、東側の町の中心から北へ延びる道路に荷馬車を止めてディーンを待った。
荷馬車は橋を渡れないからと、朝早くにディーンは宿を出て徒歩で冒険者組合へ向かったのだ。
「ディーンはさ」
ヴェラが荷台の縁に肘をつき、顎を乗せたまま口だけ動かした。
「ディーンはあんたほど赤い竜に執着してるように見えないんだけど、どうしてあそこまで一生懸命なんだろうね」
「そうか?あいつも俺と同じように赤い竜を恨んでると思うが」
村を破壊し、自分達の運命を変えた赤い竜を殺す。アッシュにとってこれが普通のことであり、同じ境遇のディーンも当然同じ気持ちだと、今まで疑ってかかったこともなかった。
「そうかい?ならあたしの勘違いかね」
ヴェラはそれ以上何も言わず、黙って遠くを眺めていた。
しばらくして、ディーンが歩いてくるのが見えた。
「お待たせ。いくつか話が聞けたから、行きながら話すよ」
アッシュの操縦で馬を出すと、一行は北の山脈に向かって進みだした。
「まず地面から聞こえる叫び声、これは冒険者組合でも正体は分からなかった」
日によって聞こえるときもあれば聞こえないときもあるそうだ。先日の嵐以降聞こえる声が大きくなったという証言もあった。近隣の住民達は昔死んだ勇者や王国兵の叫びなのではと恐れていた。
「黒羊の化け物、これは分かったよ。特異個体だった」
大陸で何件か確認されている変種の魔物、特異個体。沼地の灰色のオーガや砂漠の蜥蜴の王と同じく、北の山脈にも一匹、特異個体がいたのだ。
「羊頭の魔人、と呼ばれているらしい。黒羊の頭をした半人半獣の魔物でね、その手には大きな斧槍を持っているらしい。普段山脈から出てくることがないから組合としても対応するつもりはないそうだよ」
「あんな化物、二度と出会いたくないな」
沼地での戦いの記憶は、今だ色濃くアッシュの心に暗い影を落としていた。
「で?マーヴィンさん、道案内くらいはしてくれるんだろうね?」
荷台で楽しそうにしているマーヴィンにヴェラは冷たい視線を投げ掛ける。
「そんな目で見ないでくれたまえよ、俺のことはついでだと思って。それにほら、人を捜すなら人手は多い方がいいじゃないか」
パラパラと手記を捲りながら、それでもマーヴィンはきちんと行き先を示してくれた。




