第26話
「冒険者の方がいらっしゃるとは、珍しいことです」
川に沿って建ち並ぶ製錬場、その入り口に鉱山組合はあった。奥からは作業をする音が響いており組合の中は少し蒸し暑い。
「普段は粗野な男どもしかいない場所故、若い女性にはむさ苦しい場所でしょう」
「そんなことはないよ。気取った場所よりこういったところの方があたしは好きさ」
ヴェラの笑顔に組合長も釣られて笑った。
「さて、王都の冒険者組合からの手紙、読ませてもらいました。早速その石とやらを見せてもらえますか?」
そう言うと何やら筒のようなものを片眼にはめて、アッシュから受け取った石を念入りに調べ始めた。
「少し割ってもいいですかな?」
組合長の言葉にアッシュが頷く。
ノミと金槌を使い三分の一ほどを割ると、その断面を丹念に調べる。
ふむ、と頷くと片眼から筒を外し石を返してきた。
「皆さんは化石というのをご存じかな?」
つい最近マーヴィンから聞いた言葉がここでも飛び出してきた。
「はい、昔の生き物の死体が石になったものだとか。知ったのは、つい最近ですが」
「ならば話が早い。まず間違いなくこれは化石の類いでしょう。ただし化石というのは通常生き物の骨や歯、殻などが変化したものです」
鉱石を掘っているとたまに発見されるのですよ、と組合長は続けた。
「しかしこれはそういったものとは違うように見えます。そうですね、肉、でしょうか」
「肉ですか?」
「ええ、確証はありませんが。本来肉や脂肪などは腐りますので化石になることはないのですが。まぁ例えば腐らない肉の持ち主が死んで時間が経てば、こういったものになるのかもしれませんな」
そんな生き物、いるとは思えませんがね。という組合長に礼を言い、割れた小さい方の欠片を預けてアッシュ達は鉱山組合を後にした。
組合の中が蒸していただけに外に吹く風はとても気持ちがいい。
三人は宿屋に戻るとマーヴィンに声を掛け酒場へと向かったのだった。




