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イシュト大陸物語  作者: 明星
老齢の鍛冶師
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第23話

人間の一人がこちらに向かってくる。その手には黒い剣。盾を持たず剣だけを握り締め自分に向かってくるその姿は愚かしく見えた。

人間は弱く、柔らかく、脆い。この手にある鉄の爪も人間から奪ったものを武器に作り直した。

気に入っている。この爪を深く突き刺すとき、何にも変えられない興奮を覚える。

先日の嵐で近隣の生き物が身を潜めてしまい、久しぶりに見つけた獲物、遠出をした甲斐があった。突き刺し、内蔵を抉り出す。

無防備に突っ込んでくる人間の頭を狙って思い切り拳を突き出す。これで終わりだ。


次の瞬間、オークの伸ばした腕は肘からバッサリと切り飛ばされていた。

ディーンはオークの大振りな一撃を掻い潜り、下から切り上げた黒剣で腕を切り飛ばしたのだった。

オークの顔に驚きの表情が広がる。

ディーンはそのまま一歩踏み出し、切り上げた黒剣の刃を返すと肩口から一気に切り下ろした。


薄れていく意識の中でオークは気付いた。今、目の前にいる人間は今まで殺してきた人間とは種類が違うということに。自分をたったの二太刀で切り伏せたこの人間は、戦士なのだということに。

ズン、という衝撃のあと、そこでオークの意識は完全に途絶えた。

オークの頭から黒剣を抜くとディーンはアッシュの元へ向かった。


両刃の斧を持つオークは、それを振り回しアッシュを少しずつ後退させている。このままいくと岩に阻まれ逃げ道を失いそうだ。

しかしそれはアッシュの計算だった。岩に囲まれた場所へとオークを誘導する。辺りは狭まり巨大な体と武器を持つオークにとって窮屈な場所となり、攻撃の種類が限定される。

オークが斧を振りかぶり、アッシュの頭へ目掛けて振り下ろす。

これを、待っていた。

体を横にずらし攻撃を避けると盾でオークの斧を抑え込み、手斧をオークの首筋に向かって斬り上げた。

肉にめり込む音。斧を両手で持っていたオークはアッシュの一撃を避けることができず、首の半分ほどまで断ち切られてしまった。


倒れたオークの後ろからファングが姿を現す。

「今回はお前に負担を掛けなくてすんだよ」

念のためファングには岩に隠れてもらい、万が一のときには呼ぶつもりだった。

しかし沼地での猪の一件から魔物に噛みつかせるのは極力避けたいとも思っている。だから今回は自分の力でオークを倒したかった。それが実現し、アッシュは心の底から安堵していた。


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