表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イシュト大陸物語  作者: 明星
老齢の鍛冶師
158/408

第18話

「いやぁ、ちょうど旅に出ようかと思っていたところなんだよ」

部屋の中に沈黙が訪れる。

少しして、ヴェラが口を開く。

「何を探しに行くって?」

「聖女だよ。ご先祖さんの前から姿を消した聖女を探しに行くんだ」

マーヴィンは自分の考えに満足したのか一人頷いている。

「気は確かかい?」

「まぁまぁ聞いてくれたまえ」


マーヴィンが探すのは、正確には聖女の痕跡だと言う。あの日、拠点から姿を消した聖女がその後どうなったのかを誰も知らない。

しかし人は生きていく上で必ず何かしらの痕跡を残す。マーヴィンはそれを探したいと言うのだ。

「聖女の痕跡、遺物でもいい、そういった依頼を冒険者組合に出しても誰も受けてくれない。ただの道楽だと思われるんだろうね」

大陸に住む人間の大部分にとっては竜やお伽噺に出てくる勇者よりも、今日明日を生きることの方がずっと大事だ。

「かといって現地で冒険者を雇えるほどのお金は、もうない」

「それにしてはあまり深刻そうに見えませんね」

「最低限の生活ができるだけのお金は国から貰っているからね。なんたって俺のご先祖さんは北の竜討伐の唯一の生き残りで、それを大陸中に伝えた功績者だ」

「で、あたし達なら安くすませられるだろうって?」

「ははは、まぁそうだね。でもそれだけじゃないよ。ヴェラちゃんなら信用できる、だからさ。どうだろう?受けてくれないかな?」


マーヴィンの問いに三人とも答えは決まっていた。

「申し訳ないのですが、お受けできません」

アッシュが答える。

「あたし達もやらなきゃいけないことがあるからね。あるかどうかも分からない聖女の痕跡探しなんて、付き合ってる時間はないのさ」

ヴェラが補足し、じゃあ帰ろうかと立ち上がる。

「そうか、それは残念だ」

ガックリと肩を落としたマーヴィンも立ち上がり玄関へと案内する。

「君達はこの後どこへ向かうんだい?」

「アレティアへ向かいます」

見送るだけのつもりだったマーヴィンの顔に光明がさした。

「ほう、それはいつかな?」

「王都での用は済みましたので、明日には発つつもりです」

「本当かい?偶然だね、俺も明日アレティアへ発つつもりだったんだよ」

先程まで落ち込んでいたのが一変、マーヴィンは急に明るくなった。

「それ、今決めたよね?」

「ははは、まぁいいじゃないか。旅に出るつもりはあったんだ。旅は道連れ、一緒にアレティアに行こうじゃないか」


どうする、と三人は顔を見合わせる。

「アレティアまで一緒に行くだけならいいんじゃないか?」

アッシュの言葉に反対する理由はない。

「明日の朝、王都を出発しますので門で合流しましょう」

「さすがアッシュ君。君ならそう言ってくれると思っていたよ」

「まったく、調子がいいんだから。旅の間必要なものは自分で用意しておくれよ」

「ああ、それは大丈夫だ。では明日、門で」

楽しみだなぁ、という声を残してマーヴィンは家へと戻っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ