第16話
「そう、アッシュ君正解。皆が焼き殺されたのなら誰もこの話を知らない。俺のご先祖さんが手記を広めたってことは、生き残ったんだね、ただ一人、俺のご先祖さんだけが」
竜が炎の息を吐いた直後、いち早くそれに気づいた盾の勇者は神から与えられた万能の盾を投げた。聖女の前に。
自らが焼かれることを厭わず、ただ聖女を守るために盾を投げたのだ。
しかし投げるのが一瞬遅かった為に、炎は聖女の体を燃やした。
「旅の途中聖女と話をするくらいには仲のよかった俺のご先祖さんは竜が倒れた後聖女のもとへと駆け寄ってたんだ。たまたま場所がよかったんだろうな、体中に火傷を負いながらも盾のお陰で命拾いしたのさ」
そして何とか王都へ戻ったマーヴィンの祖先は治療を受けたのち、王からの要請で手記を公開することとなったのだった。
「とまぁこれが、大昔に起こった北の竜と人間との戦いの話だ」
パタンと本を畳むとマーヴィンは続けて言った。
「表向きのな」と。
「この手記にはこう書かれている。炎に焼かれ、声を張り上げ、それでも聖女は生きていたと」
地獄のような景色がようやく落ち着くと、炭となった人の山の中から這い出すものがあった。
それを、マーヴィンの祖先は怯えながら見ていた。
髪を全て失い、皮膚は黒く炭と化し、それでも這っているそれが、聖女だった。
「勇気を出して助けにいったそうだよ。死体の山から聖女を引っ張りだし、担いで拠点まで戻ったそうだ」
回復を待つため聖女とマーヴィンの祖先はそこで数日を過ごした。
聖女の回復は早く、数日して炭が体から剥がれ落ちるとその下には新しい皮膚があった。
「当然完治って訳にはいかないよな。本当なら死んでる程の大火傷だ。炭の下から出てきた皮膚はひどくただれてて、元の美しい顔の面影はなかったそうだ」
その後聖女が目を覚ますと色々なことを呟き始めた。
「あの声は誰?どうして笑っているの?竜が原因ではないの?あなたは誰なの?ってな」
そして聖女は、忽然と姿を消した。
「ご先祖さんも必死で探したみたいなんだけど、最後まで見つからなかった。そして考えたのさ、竜が原因ではないという聖女の言っていた言葉を」
空を自由に飛べるのであれば、なぜ人間の接近を許したのか。全てを巻き込む炎を吐けるのであれば、なぜ最後まで吐かなかったのか。人間からの一撃をくらうまで、なぜ竜は攻撃してこなかったのか。
「だからご先祖さんは王都に戻ってきてからは兵士をやめて、竜について調べるようになったんだよ」
これが俺の、竜を調べる一族の成り立ちだよ、そう言うとマーヴィンは一気にお茶を飲み干した。




