第12話
天井は高く、部屋は広い。しかしその広い部屋の中はどこも紙や本の山に埋め尽くされていた。
「いやぁ、散らかってて申し訳ないね。見られるとまずいものは片付けたから好きなところに座っていいよ」
そう言いながらマーヴィンはニヤニヤとヴェラを見る。
「まったく、もうそんなので照れるような歳じゃないよ」
ヴェラは遠慮なく本の上に腰掛けた。
「お二人はどういったお知り合いなんですか?」
「ああ、そういえば言ってなかったね。前にオーガに襲われた話をしたの、覚えてるかい?」
沼地に旅に出る前日、酒場で聞いた話だ。
「その時の依頼がマーヴィンさんの遺跡調査の護衛だったのさ」
まだ駆け出しで、少しでも早く功を上げたかったヴェラ達は組合からの依頼ではなく、個人からの依頼に目をつけた。
その時酒場で人を集めていたマーヴィンと知り合い、護衛を受けたのだ。
「ほら、あたし達はもともとニールの商隊の護衛をする為に冒険者になったからさ、その為には同じ護衛の依頼を成功させるのが一番の近道だと思ったんだよ」
近道だと思ったんだけどね、とヴェラがため息をつきながら続ける。
「アーマードの北西にある遺跡が竜に関係してるって話でね、行ったはいいが竜じゃなくてリザードマンが巣くう遺跡だし、帰りにオーガには襲われるしで散々だったってわけ」
「あの時のヴェラちゃんは初々しかったねぇ。よろしくお願いします!なんて言っちゃってさぁ」
「ちゃん付けで呼ぶんじゃないよ。あの頃はまだ冒険者になって間もなかったんだ。茶化さないでおくれよ」
ヴェラは自分を見るアッシュの視線を感じ、腕を伸ばし顔を背けさせた。
「それで?どうして俺を紹介するのかな」
奥から持ってきたお茶を三人に渡し終わると、マーヴィンが聞いてきた。
「さっきの護衛の話。あの護衛の途中に聞かせてくれただろ?北の竜と人間達の話をさ。あれを二人に聞かせてやってほしいんだよ」
ヴェラの頼みにマーヴィンは目を細め顎を撫でる。
「それはまた、どうして?」
「何でもいい。竜の手掛かりが欲しいんです」
「竜の手掛かりを得て、どうするつもりかな?」
マーヴィンの表情が固くなる。
「竜を見つけて、殺します」
アッシュの答えにマーヴィンはがっかりした様子で首を振った。
「どんな面白い人間を連れてきたかと思ったら、申し訳ないけど君の為に竜の話はできないよ」
マーヴィンはにべもなく断った。




