第2話
誰よりも早く現場に到着したのはファングだった。
荷馬車の陰で怯える商人二人とゴブリンの間に立ち塞がり牙を剥いて威嚇する。
魔物に次いで大型の狼の出現に商人達は更に混乱した。
遅れて到着したアッシュとディーンが心配ない旨を叫んで伝え、荷物を漁っていたゴブリンをそれぞれ一匹ずつ切り捨てる。
それに気を取られ自分から目をそらしたゴブリンにファングが飛び掛かり、地面に押さえつけたまま喉を噛み千切った。
ゴブリン達の意識は完全にアッシュ達に向いた。ギャッギャと喚きながら威嚇し、飛び跳ねている。
アッシュとディーンが前に出てそれぞれを受け持つ。
ディーンがゴブリンの突き出す短剣を一回、二回と細剣で弾くと、そのまま胸元へ滑り込ませるように突き立て、剣先を捻って止めをさした。
細剣を引き抜きディーンが振り向いた時、アッシュはまだ戦っている最中だった。
別段調子が悪いようには見えないが、ゴブリンの攻撃を防ぎ、かわすだけでアッシュから攻撃する気配がない。
アッシュが片手剣でゴブリンの攻撃を受けているのを見て、ディーンは左手のせいで盾が使えないのだと判断し加勢に向かおうとした。
しかし、アッシュは自分のところに来ようとするディーンを布を巻いた左手を振って制止する。
何度かゴブリンの攻撃を防ぐうちにアッシュは徐々に間合いを詰め始め、何かを確認するように受けて、弾く。
ゴブリンは次第に苛立ち始め、がむしゃらに短剣を振り回し始めた。
するとアッシュはその中から一つを選び、力任せに短剣を弾き飛ばすと、あっさりとゴブリンを切り伏せたのだった。
「どうしたんだい?」
不思議そうにディーンが聞く。
「試してたんだ、きちんと戦えるのかを」
アッシュの心にはオークとの戦いでの一撃が薄く影を落としていた。次に敵に立ち向かうとき、果たして体が動くのかという懸念があった。
「でも、杞憂だったよ」
ゴブリンの死体を見下ろしたままアッシュはそう呟いた。
アーマードに向かっているという商人が、幾ばくかの報酬と荷台に乗せていくことを条件に二人に護衛の依頼をしてきた。
金も手に入り、長い距離を歩く必要もない。断る理由のない二人はその商人の提案に快く応じたのだった。




