第9話
「以前はこの辺りも、もっと賑わっていたんです」
と鍛冶屋の女性は言う。
町の拡大に伴い新しく施設が立ち並ぶと、それを中心に人が集まり栄える。
しかしその後の町の変化についていけなかった商店や宿屋、鍛冶屋などは取り残されてしまう。つまりこの辺り一帯がそうだった。
「父のやり方は古かったんだと思います。昔気質の父は量よりも質にこだわって仕事をしていました。その結果、早く安くという他の鍛冶屋にお客さんを取られてしまって、今ではこの有り様です」
この店だけではない。おそらく近くの商店や宿屋も同じような理由で時代に取り残されてしまったのだろう。
「そんな父が突然道具一式を持って出掛けていきました。私はてっきり出張の依頼でも来たのかと思って見送りましたが、それきり帰ってきていません」
「どこか心当たりはありませんか?」
ディーンの問い掛けに首を横に振る。
「父がいなくなってからずっと王都の中を探しましたが、誰も父を見ていません。もしかしたら王都から出ていったのかもしれませんが、それだとどこに行ったのか」
「門番が何か記録を残していないだろうか」
町から出ていったのならあの門を通る。何か情報があるかもしれない。
「ない、と思います。王都に住む人間には記章が配られていますので、門ではそれを見せるだけで通行できますので」
アッシュの考えはすぐに否定された。
「何の情報もないと探しようがないな。ファングだってどこまでも匂いを追えるわけじゃない」
「あの」
少しの沈黙の後、女性が口を開いた。
「父は鍛冶師としての自分の仕事に限界を感じていました。歳も歳ですから店を畳むことも考えていたみたいです。だから、もしかしたら、最後に何かを作りたくて出て行ったのかもしれません」
「お客さんが来ないこの店では、その望みが叶わないと思ったわけだね」
「はい、もしかしたら、ですけど」
そういって女性は自信無さそうにうつむく。
「もしそうだとしたら、可能性が高いのは北のアレティアだろうね」
北の山脈から掘り出された鉱石や宝石、そういった物を中心として栄えた町。アレティアであれば自分の希望に合った素材を探すこともできるはずだ。
「俺達はもともと次にアレティアに向かうつもりでした。道中ギムさんを探しながら行きますので、見つけたら戻るように伝える、というので構いませんか?」
何の情報もないまま人捜しをする余裕はないが、街道を進みながらファングに手伝ってもらう分にはたいした手間ではない。
「はい、それで構いません。ただ、無事であれば無理に帰ってこさせる必要はありませんので、父の思うようにさせてあげてください」
「わかりました、ではギムさん自身には自由にしてもらって、発見の報告はアレティアの冒険者組合にしておきますね」
「ええ、よろしくお願いします」
依頼の内容もまとまり、鍛冶屋を出る。近くにある寂れた宿屋を今夜の宿泊先と決めて荷馬車を動かそうとした時だった。
「待ってください」
鍛冶屋の女性が何かを抱えて追いかけてきた。




