第6話
組合の奥から現れた男はレジエスと名乗った。
「王都の冒険者組合で、組合長補佐をしています。カヴァル組合長からの手紙、拝見させて頂きました」
三人を椅子へかけるよう促すとレジエスも椅子へと腰かける。
机の上に両肘をつき手を組むと、それではと話始めた。
「まずはその、黒い石を拝見させて頂けますか?」
アッシュから石を受けとると、用意していた容器の中へ石を落とした。以前と同じように、石は容器の中の水を黒い液体へと変貌させる。
レジエスは目の前で手を組んだままじっとそれを見ている。
「なるほど。これは確かに魔物の死骸のそれとよく似ています。そしてこれを口にした病人は怪物となり、死に瀕したものは再び生を取り戻したと、そういうことですね」
「生を取り戻したなんて、そんないいもんじゃないさ。あれはただの死に損ねた死人だよ」
ヴェラが吐き捨てるように言う。
アッシュ達は石にまつわる一連の事件の話をレジエスへと伝えた。
「ふむ、私も長くこの世界にいますがそのような話は初めて聞きます。わかりました、皆さんには正式にこの石の調査をお願いします。そうなると、やはりまずはアレティアへ向かっていただくのがよろしいかと」
言いながらレジエスは紙を一枚広げるとサラサラと手紙を書き始め、手紙の最後に署名をすると手紙を折り封筒へ入れた。
封筒は蝋で封印され上から冒険者組合の判子が押された。
「これをアレティアの鉱山組合へ渡してください。石の調査の全面協力を依頼した手紙です」
そう言って差し出された手紙をアッシュは懐へしまう。
「皆さんはこの後にご予定が?」
「はい、いくつか」
まだ泊まる場所が見つかっていない。壊れた盾を修理に出さなければいけないし、ヴェラに紹介してもらわなければいけない人もいる。
「そうですか。既にご存知かと思いますが東のカーディフの町からの依頼で蜥蜴の王討伐の為に冒険者を集めていましてね。オーガ殺しの皆さんにも参加して頂けたらと思ったのですが」
「たくさんの冒険者の方達を見かけましたが、まだ必要なんですか?」
「各町に使いを出したので数は集まりましたが、特異個体である蜥蜴の王を討伐する為の作戦に組み込める冒険者は、その半分ほどしかいません。戦力は少しでも多い方がいいですからね」
レジエスの言葉にアッシュは気まずそうに答える。
「あの、オーガを倒したのは事実ですが、その直後に別のオーガに殺されかけているんです。その、特異個体であるオーガに。だから俺達にはまだ蜥蜴の王に立ち向かえる実力はないと思います」
アッシュの言葉にレジエスは優しく微笑んだ。




