第4話
「全員って、どういうことだ」
村の人間全員がそうだったというガレアの言葉は、間違いなく人ではない人間を指してのことだ。
「父さんも母さんも、みんな?」
どうして?いつから?たくさんの疑問がアッシュとディーンの頭を混乱させた。
「いろいろと思うところがあるのは分かるけどね、今は目の前のことに集中しておくれ」
ヴェラの言葉に二人は我にかえる。
王都へ入る為の門はすぐ目の前まできていた。
たなびく旗に目が止まる。そこには狼の横顔、大昔一人の青年を王へと導いた一匹の黒い狼、その狼が王国を象徴する旗に刻まれ風になびいていた。
「狩りを行うものや家畜を飼うものにとっては害獣である狼も王都では崇められる存在です。おそらく無下に扱われることはないでしょう」
と、カフ村を出発する日の朝、ニコルが言っていた。人の出入りの多い王都ではファングを付近に隠れさせておくことが難しいのではと思っていたアッシュ達にとって、このニコルの言葉は一つの希望となった。
「ニコルさんはああ言ってたけどね、実際のところは分からないんだ。ファングも中に入れるように説得する準備はしときなよ」
前を進む者達が門を番する兵士に促され、自身を証明する書類や手形を出している。
順番が来るとアッシュ達もそれに習い冒険者の登録証を差し出した。
門番はその登録証を見るにとどまり、荷台で寝ているファングに対しても何も言わなかった。
「お前達の行動の責任は所属する組合が負う。王都の中での行動にはくれぐれも注意すること」
それだけ言うと「進め」の言葉を最期に門番は次に並ぶ商人へと向かった。
「なるほどね。あんなこと言われちまったら死ぬ覚悟でもない限り、王都で無茶をしようなんて気にはならないね」
冒険者の行動は冒険者組合に、商人の行動は商人組合に、そして近隣の村人の行動はその村自体が責任を追求される。
王都では個の責任を全体に求めることで治安の安定を図っていた。その為集団に属さない者が王都へ入る際に限っては、時間をかけて素性を記録することとなるようだ。
門をくぐり真っ直ぐに延びる道を進む。
道は石畳が敷かれており、定期的に補修されているのか割れや穴がなかった。
その広い道の左右には民家が広がり、先に進むにつれて商店や宿屋、組合などの施設が見えてくる。その更に先には豪勢な建物が並び、最奥の王城と合わさり素晴らしい景色を作っていた。
「さてと、まずは泊まるところを押さえようかね」
ヴェラの指示でディーンは荷馬車を宿屋へと進めた。




