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イシュト大陸物語  作者: 明星
老齢の鍛冶師
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第1話

「もう行かれるんですか?」

翌朝、アッシュ達はリオに出発することを告げた。

ディーンが幾ばくかの宿泊費を出そうとしたが、これをリオは最後まで頑なに受け取ろうとしなかった。

「ニコルさんからも受け取らないようにと言付かってますので」

そのニコルはというと朝早くアッシュ達に挨拶を済ませると今後のことを決めなければいけないからと出掛けていった。

その顔は責任や周りからの重圧とは無縁な、実に晴れやかなものだった。


ここから王都までまだしばらく掛かるということもあり、少し多目に買い込んだ物資を馬車に積む。

いつまでも手を振り続けるリオの見送りを背に、アッシュ達は村を出て街道まで戻った。


街道を進む内に、冒険者の姿が多いことに気付いた。

「王都で何かあるのかな?」

王都の冒険者組合で受けられる依頼は難易度の高いものが多い。それを表すかのように街道を進む冒険者達は一様に立派な装備品を身に付けていた。

「何か大規模な依頼が発生したのかもしれないね。あ、そうだ、あんたがもらった剣、見せておくれよ」

ヴェラがディーンに手を差し出す。

ニコルから譲り受けた黒い剣を、ディーンはその後も鞘に納めたままにしていた為、まだ誰もよく見ていなかった。

ディーンは慎重に鞘から剣を抜きヴェラの手に持たせた。


黒い片刃の直剣。

よく見ると少しだけ反っている、金属とも鉱石とも区別のつかないその刃は光を受けても反射することがない。

「なんだが不気味な剣だね」

太陽にかざすと、まるでそこだけを削ぎとったかのように見える。

何度か振ってみるとその軽さに驚いた。

試しに馬車の荷台の縁へ振り下ろすと、力をいれていないにも関わらず簡単に刃が食い込んでしまった。

「気を付けないと指を落とすぞ」

アッシュの言葉にヴェラは慌ててディーンに剣を返した。

「こんな武器に頼ってしまうと逆に弱くなってしまいそうだよ」

受け取った剣を鞘に納め腰の下へしまう。

武器はあくまでも人が操るものだとガレアに教わった。しかしあまりに強力な武器は人を操る。そうならないことを肝に命じ、ディーンは静かに目を閉じた。


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