第22話
「今日は何だか遠いな」
アッシュの呼び掛けにファングが姿を現したものの、その場所がやけに遠かった。
いつもと違うのはニコルがいるということだけ。
「怖がらせないようにしているのかもしれないね」
行ってくる、とアッシュはディーンとニコルをその場に残し、ファングの元へ向かった。
ファングの傍まで来たアッシュがしゃがみ、頭を撫でながら一言二言言うとファングは心当たりがあるのか森の中を歩き始めた。
「案内してくれるらしい」
ニコルとディーンにファングの意思を伝えるとアッシュもそのまま歩き始めた。
「狼と、話ができるのですか?」
ヴェラがそうであったように、ニコルもアッシュとファングのやり取りに驚いている。
「いえ、感覚なんだと思います。子供の頃から一緒でしたから、通じ合うものがあるんでしょう」
ファングの案内する先には何かがいるはずです、とディーンはニコルに注意を促して、二人もアッシュに続いた。
「彼は今までどこにいたんですか?」
ファングの後ろを歩きながらニコルが聞いてきた。
「俺達が人の多いところに行くときは離れた場所で待機してます。それから、ファングは雌です」
「これはすみません、名前からてっきり雄かと」
アッシュはその言葉に少し傷つく。
「しかしそうですか、皆さんが村にいる間は彼女は一人なんですね」
「どうかしましたか?」
「ええ、僕から皆に説明しますので、彼女も一緒に村に戻りましょう」
「いいんですか?」
「一人というのは寂しいものです。ファングさんさえよければ、ですけどね」
ニコルの言葉が聞こえたのか、ファングの尻尾が途端にゆらゆらと揺れ始めた。
先頭のファングがピタと止まる。
続いてアッシュが止まり、後ろの二人を手で制した。
「ディーン、頼む」
アッシュの言葉に頷くとディーンは身軽に森の中へと消えていった。
少しして戻ってきたディーンは困った顔をしていた。
「この先の泉に魔物がいたよ。たぶんあれはコボルト、だと思う」
「強いという話は聞かない魔物だな」
「うん、ただ、数が多くて」
村に魔物と戦える者はいないし、ヴェラも今日は役に立たない。
「なら俺達でやるしかないか。ニコルさんはここにいてください」
森の奥へと入っていくアッシュ達を見送りながら、ニコルはお守りの首飾りを強く握りしめた。




