第18話
「おう、朝早くからすまないな」
森の入り口に一人の男が立っていた。
「おはようございます、ダンさん」
それは昨日リオに突っ掛かっていた男だった。
「なんだ、こいつらも連れてきたのか」
ニコルの後ろを歩くアッシュとディーンに一瞥をくれると、ダンは不機嫌そうに言った。
「はい、この方達は冒険者ですから、助けていただこうと思いまして」
「ふん、余所者が俺の森の中に入るのは気に入らないが、まぁいい。案内する、ついてこい」
先導するダンから少し離れて三人が続く。
「すみません、気を悪くなさらないで下さいね」
「大丈夫です。しかし、俺の森、ですか。確かに難しそうな方ですね」
「それも仕方のないことです。僕が生まれたときからこの辺一帯はダンさんの家の狩場でしたから。人が増え森を切り開くときにもずいぶんと抵抗されたものです」
ここだ、としばらく森を進んだところで不意にダンが足を止めた。
追い付いたアッシュ達がダンの示す先を見る。
そこには何匹もの小動物の無惨に引き裂かれた死体が転がっており、辺りには血と毛が飛び散っていた。
その周辺の木の幹には爪痕のような引っ掻き傷が無数についている。
「これは食うために殺してるんじゃない、ただ殺すことを楽しんだ跡だ」
ダンは忌々しく現場を見つめる。
「今回も同じような痕跡ですね」
現場へ足を踏み入れ周辺を確認するとニコルがそう呟いた。
「今までにもこんなことがあったんですか?」
「ええ、そう頻繁にではないですが、森の開拓が一段落した頃からこういったことが起こるようになりました」
「魔物、だろうか」
幹についた傷を触りながらアッシュが呟く。
傷は鋭い爪で引っ掻いたような五本の線でできている。
「俺達も最初はそう思ったんだがな、しかし大型の魔物がいる痕跡が見つからない」
ダンの話によると一度大がかりな捜索を行ったのだが、大型の生き物の足跡や糞、抜け落ちた毛などの痕跡は全く見つからなかったらしい。
「それに、森に生きているのならもっと頻繁に起きてもおかしくない。だから未だにこいつの正体が分からないんだ」
後は頼んだぞ、そう言うとダンは来た道を戻っていった。




