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イシュト大陸物語  作者: 明星
啼泣
122/408

第17話

「ニコルさん、いるかい?」

ニコルがアッシュ達に何かを言いかけたその時、村の男が店の中へと入ってきた。

「やぁ、おはようございます。どうされましたか」

「また出やがったみたいなんだ」

村人の言葉にニコルの表情が引き締まる。

「場所は?」

「ダンの家から奥へ行った森の中だ。今朝ダンが狩りに森へ入った時に見つけた」

「分かりました。すぐに準備をして向かいます」

頼んだよ、そう言って村人は店から出ていった。


「すみません、皆さんにも同行をお願いしたいのですが、よろしいですか?」

ニコルは台の裏から細剣と何かの牙のような首飾りを取り出し身に付けた。

「ごめん、あたしは無理」

ニコルが武装するのを見てヴェラは言う。

「すまないね、とてもじゃないけど戦える状態じゃないよ」

ヴェラの二日酔いは今も続いている。

「僕達は構いませんが、どこへ?」

「それは道々お話致します。先程の相談したいことにも繋がる話ですので」

了解したアッシュとディーンが部屋へ装備を取りに上がり、念のため2人とも帷子を装備する。

片手剣と盾、細剣と短剣をそれぞれ身に付けて降りてきた二人を見てニコルは羨望に似た眼差しを向けてきた。

「やはり本物の冒険者の方は雰囲気から違いますね。僕なんかが剣を持っても全然しっくりきません」

確かにニコルの言うように、片手剣を腰に指したその姿はお世辞にも強そうとは言えなかった。

「いや、俺達もまだまだ駆け出しですから」

アッシュは一応の謙遜をして、ニコルに続いて店からでた。


「西の森を目指します」

宿屋を出てニコルを先頭に歩く。村の中を歩いていると四方からニコルに声が掛かった。

「人望があるんですね」

ディーンの言葉にニコルは複雑な顔をする。

「人望、と言っていいんでしょうか。この村で現金の価値が上がったとき、一番多く持っていたのが僕でした。でもそれは、もとはリオのお金です。そのお金を使って行商人と取引ができたのが僕だけでしたから、自然と村の中で重要な立場になってしまっただけなんですよ。それに」

何かを言い淀むニコルにディーンが問い掛ける。

「先程おっしゃってた村の内、ですか?」

「そうです。今まで物と物、相対的な価値観で成り立っていた村が突然現金という絶対的な価値観へと変わらなければいけなかったんです。村人全員がすぐにそれに応じてくれたわけではありませんでした。だから今も僕の店に限っては物々交換も受け付けています」

「有利な立場にいた人ほど、特に受け入れられないでしょうね」

ニコルの言っていることが理解できるのは、行商人である父からいろいろと学んでいたからだった。

「はい。肉や毛皮等は今まで一番強い力を持っていましたから、物々交換する際にもずいぶんと強気なものでした。それが通用しなくなるのはやはり面白くないのでしょう」

「昨日の、ダンさんのようにですか?」

「まぁ、そうですね」

ニコルは困ったように笑った。

仕組みが変わり人が増える。そうした環境の変化に対応できない人間は必ず出てくる。ダンはそうした中の一人なのだ。

過去にしがみつき新しい仕組みに慣れようとしない。物と物を交換する際の相場の変化も考えられず、今まで村で行ってきた物々交換の概念から抜け出せないのだ。


「見えてきました。あそこが森の入り口です」

家が並ぶ村の中を出て畑の間を進む。その先にある民家の奥に森へと繋がる入り口がぽっかりと口を開けていた。

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