第12話
倒れたオークを見下ろしたまま、二人は無言で立っている。
改めてみるオークは巨漢だった。二人より頭一つ分ほど大きく、毛皮を纏った体は岩のようだった。
足が震えてその場に崩れ落ちるアッシュにディーンが駆け寄り、支えるように寄り添い静かに座らせた。
「ぼろぼろだ」
アッシュが自分の体を確かめる。左腕は動かすことができず身体中が痛かった。
オークの一撃を受けた円盾は大きくへこみ、その怪力具合を物語っていた。
「僕も、酷い臭いだ」
そう言ってディーンが笑う。死骸に隠れていたせいで頭や体には家畜の血肉がこびりついている。
「少し休みたいな」
「そうだね、一旦広場まで戻ろうか」
ディーンに手伝ってもらい何とか立ち上がると、肩を借りてゆっくりと歩きだした。
ディーンが汚れた体を広場に流れる小川で洗っている間、アッシュは先程の戦いを思い出していた。
オークの攻撃は見えていた。ファングとの連携で手傷を負わすこともできた。
しかし、実戦に慣れていないというのは思い掛けない事故を誘発する。
あの時、もっと周りを見ていればゴブリン跡の粘液に足を滑らせることはなかったはずだ。
たった1つ判断で戦況が変わるということを、アッシュは心に刻んだ。
そして落ちていたゴブリンの短剣を拾い添え木にし、ゴブリンの寝床に落ちていた布を千切り左腕に巻き付け固定した。
「痛みはどうだい?」
汚れを落として服を着たディーンが歩いてくる。
「ああ、なんとか、普通に歩けそうだ」
「念の為あの奥も調べてみた方がいいと思うんだけど」
ディーンの示す先はオークの出てきた通路だった。
「ファング?」
アッシュの問い掛けにファングはパタパタと尻尾を振って答えた。
「大丈夫そうだ、行こう」
通路には途中三ヵ所の脇道があったが、どれも奥は行き止まりになっており収穫は何もなかった。
それらを過ぎてようやく最深部となり、どうやらそこがオークの部屋のようだ。
部屋の壁際に道具や武器、防具などが雑多に置かれている。
使えるものはないかと探してみたが、道具は粗末なものばかりで武器や防具は人間には大きすぎた。
また問題は大きさだけではなかった。
どの装備品も酷く損傷しているのだ。武器の刃先は酷く欠け、使い物にならない。防具はへこみ、割れ、一番酷い状態の鎖帷子は三本の線で裂かれていた。




