第5話
「それはまた、何のつもりで?」
聞きながら、ヴェラの口許が弛んでいる。
「分かってるんだろ?俺がカティナを町まで連れていこうと思ったんだ」
アッシュの顔が赤くなり、すぐに連れ戻されたけどな、と呟いた。
「仕方ないよ。僕達はまだ子供で、何も知らなかったんだから。あの時はずいぶん長く歩いた気がしたけど実際はたいした距離じゃなかったんだと思う。僕たちを追いかけてきた大人達にあっという間に見つかってね、村に連れ戻されて大目玉をくらったよ」
特にすりこぎとまな板は剣と盾に見立てる為にアッシュが子供なりに改造した結果、二度と使えない状態になっていた。そしてアッシュはこの事で母親からぶたれるのだが、それは最初で最後のことだった。
ディーンの笑顔は懐かしいことを思い出すものへと変わっていく。
「子供の僕たちにとってはそれでも立派な冒険だった。その事があってから僕はアッシュやカティナと遊ぶようになって、徐々にみんなも一緒に遊ぶようになったんだ」
カティナをどうするかというのも、アッシュの突飛な行動のおかげですぐに決まった。
しばらくは村で保護して、次に行商人が来たときに彼らに託す事になったのだ。
行商人は少し前に来たばかりだった為、次に来るのはまだずいぶん先の話だ。しかし子供だったアッシュ達には、その時間があっという間に過ぎていくように感じられた。
「カティナはどんな子だったんだい?」
「カティナは」
とアッシュが口を開く。
「カティナはいつも笑顔だった。村に来た頃は表情なんかなくて、今にも消えてしまいそうに部屋の隅に座ってた。だけど、あの日、一緒に村を出たあの日から少しずつ明るくなっていったんだ」
「元気になってからのカティナはそれはいい子でね。最初は訝しんでた村の人達ともいつの間にか仲良くなってて、アッシュのお母さんなんか嫁に来ないかって言い出すくらいさ」
ディーンはあの時のあわてふためくアッシュの姿を思い出し笑うが、すぐにその表情が曇った。
「でもね、そうした楽しい時間はすぐに終わることになるんだ。竜が、来たから」




