第3話
「こうやって旅をして、いろんな村や町を見てきて分かったんだけど、僕たちの村は本当に何もない、普通の村だったよ」
大陸の南東、大森林の外れに位置したアッシュ達の村は農耕と狩猟によって成り立っているごく普通の村だった。
アッシュの両親は狩人をしており、狩りの途中でまだ子供だったファングを見つけて保護し、アッシュと共に育てた。
ディーンの両親は村のまとめ役をしており、農業をする傍ら村を訪れる行商人との取引に携わっていた。
行商人は定期的に村を訪れ、町から運んできた物資と村で用意していた麦や毛皮等を交換する。
その行商人の来訪だけが村の人間にとって唯一外部との接点だった。
村で生まれた者達は何の疑問も持つことなく村で生き、村で死ぬ。ヴェラ達が最初そうであったように、アッシュやディーンにとってもこれが当たり前のことだと思っていた。
「村には僕達の他にも何人か子供がいたんだけどね、アッシュはあまり僕らと遊ばなかったんだよ」
その当時を思い出し、ディーンは笑う。
「俺にはファングがいたから」
アッシュは少し苦い顔をしてそれに答えた。
「そうだね。僕達は僕達で最初はファングが怖かったから近寄れなかったしね。でも、カティナが来てから、それも少しずつなくなって、みんなで遊ぶようになったんだよね」
「そのカティナって子は村の子じゃなかったのかい?」
「そう、カティナはある日森の中を歩いてるのところを発見されて、保護されたんだよ」
見つけたのはアッシュの両親だった、とディーンは続ける。
「狩りに出た森の中で、服を着ず素足で歩いてるところを発見されてね。アッシュの両親が村に連れ帰ってきたんだ」
カティナは家族と旅をしている最中に魔物に襲われたのだと言い、親や他の大人達は殺され、自分だけは拐われたのだとも言った。
そして隙をみて魔物達の元から逃げ出したところをアッシュの両親に見つけてもらったのだ。
カティナは保護されたあとしばらくの間口をきかず、この話が聞けたのは保護されて少し経ってからだった
。
「まぁこんな世の中だ。自分の命が助かっただけでもよかったじゃないか」
ヴェラの言葉にディーンは少し複雑そうな顔をして続けた。
「そう、なんだけどね。でもそのせいで村が少し大変な事になったんだよ」




