力の証明 最終話
「これは?」
「アーマードから王都に向かう途中にカフって村があってな、まぁ俺の故郷なんだが、そこに娘が住んでる。そいつにこれを渡してもらいたいんだ」
本当なら依頼が一段落した今のうちに一度村に戻るつもりだったと言う。しかしオーガ討伐を受けたことでその時間がなくなってしまった。誰かに頼みたかったが金額が金額だけにそう気軽に頼める相手もいなかった。
「俺達で、いいんですか?」
「ああ、一度一緒に戦った仲だしな。それにお前達は人の金に手を付けたりしない、俺の勘がそう言ってるのさ」
オーエンは笑いながら革袋を差し出してきた。
「わかりました、必ず届けます」
「すまないな、助かる。弟が村で宿をやってるんだが、娘もそこで働いているからすぐに分かるだろう」
娘の名前はリオってんだ、その一言から始まったオーエンの娘自慢はとどまることを知らず、その日の夜遅くまで続いたのだった。
夜も更け酒場の閉まる時間になると皆が宿へと戻り始めた。
「じゃあ、頼むな。頑張れよ、若人。また生きて会えるようにな」
そう言うとオーエンは仲間に肩を担がれ酒場を出ていった。
「俺達も戻ろう」
アッシュの言葉で三人も酒場を出る。
「こんなに話をしたのは久しぶりな気がするよ」
途中からヴェラに呼ばれディーンも旅の話をする羽目になってしまった。
「ずいぶんと楽しそうだったな」
人と話すことがあまり得意ではないアッシュは、そんなディーンを少し羨ましく思った。
「誉められるためにやったわけじゃないけどさ、それでも自分のやったことに興味をもってもらえるんだから、嬉しいよ」
今日、ディーンとヴェラから話を聞いた冒険者はきっと明日、興奮の覚めないうちに依頼を受けるだろう。そしてその成功話はまた他の誰かに語られる。
この世界で冒険者達はそうやって明日への希望を見出だして生きている。
他者の力の証明を自らの糧として、冒険者達は今日を、そして明日を生きているのだ。




