第60話
「おお、来たか、こっちだ」
三人が酒場に入るとほとんどの席が埋まっており、皆思い思いに飲み食いしている。
人混みを縫うように進み、三人はオーエンのところへ向かった。
「みんな、聞いてくれ!」
オーエンが声を張り上げ立ち上がる。
「ここにいるアッシュとディーン、ヴェラの三人はこの歳でオーガを討伐してきた!」
突然の紹介に三人は畏縮してしまう。
酒場の中からどよめきが起こり、ある男は冷やかしをいれる。
周りの声には反応せずオーエンは続ける。
「しかし、討伐したオーガの他にもう一体現れやがった。恐らく特異個体だ。その討伐に俺達が選ばれたわけだが、どうだ、共に討伐に向かう者はいないか!」
だが、オーエンの呼び掛けにすぐに応えるものはいなかった。
「どうしたお前達!こんな若い連中が頑張ってるんだ、お前達は酒場で飲んだくれてるだけの冒険者なのか!」
オーエンは立て続けに周りの冒険者を煽る。
徐々に熱を帯びてきたオーエンの言葉に反応して、冒険者の一団がいくつか手を上げた。
「よし、助かる!このまま誰も手を上げてくれなかったらどうしようかと思ったぜ。後で打ち合わせをしよう!」
そう言うとオーエンはアッシュ達に向き直り座るよう促した。
「いきなりすまなかった」
「いえ、今ので事情は分かりましたので。少し驚きましたけどね」
オーエンの行動の意味を汲み取りディーンが答える。
「ああ、だがな、これからも何かを成し遂げたらどんどん周りに吹聴していくことだ。どんな奴がどうやって何を倒したのか、そういう話は他の冒険者達の気持ちを高ぶらせるからな」
「そういうものですか」
「そういうもんだ」
オーエンはそう言いながら高く笑った。
オーエンとディーンが話している間にも冒険者達が集まってきてオーガ退治の話を求めてくる。
それらにはヴェラが時に大袈裟に、時に可笑しく話して聞かせていた。
「それで、渡したいものというのは」
この場の雰囲気が苦手なアッシュは早速本題に移る。
「ああ、そうだった。お前達この後王都へ向かうんだろ?だったら一つ頼まれちゃくれないか」
そう言ってオーエンは革袋を取りだし机の上に置いた。




