第57話
アッシュがバルドから聞いた話をカヴァルに伝えたあと、何から話したものかカヴァルは考え込む。
「随分前の話だがね」
少しして、カヴァルが口を開いた。
「ガレア君がここを訪れたことがあってね、その時に君達の話は聞いていたよ。だから最初に君達があの村の生き残りだと言った時から、ガレア君の話にあった子供達だと気づいておった」
それで何が聞きたいのかな、とカヴァルは顎を撫でた。
「先生が俺達に戦う術を教えたのは、村人の中に人ではない人間がいたからだと聞きました。それが誰なのか、先生は言ってませんでしたか?」
人ではない人間、とカヴァルは呟いたあと答えた。
「その事に関してガレア君は最後まで教えてくれなかったよ。ただ、君達が何かに巻き込まれているとは言っておった。その為にも自分達の身を自分達で守れるように鍛えているのだとも」
「その人ではない人間というのは魔物なんですか?」
ディーンが問う。
「正体はわかっておらんが、普通の人間と違いやつらは歳をとらず血が黒い。やつらが原因で滅びた村も、過去にいくつかある」
とはいえ人ではない人間が村を滅ぼすわけではない、とカヴァルは続ける。
「やつら自身が持つ力はなんら人と変わらない。記憶も、感情もある。人ではなくなったと周りが気付くのは歳をとらないことに気付くほど年数がたった時か、怪我をした時くらいだろう」
人ではない人間のせいで村が滅ぶのは村人自身の手によってだとカヴァルは言った。
カヴァルは過去の事例の一つを話始めた。
ある村で仕事の最中に男が怪我をした。
その傷口から溢れるのは血ではなく黒い液体。
村人達は男に詰め寄るが、男自身これがどういうことか分からない。
村人の疑念は男の家族へも及び、男は家族を守るため村人と対立する。
更に疑念は恐怖を生み、暴力へ発展した。
村人達総出で男を処刑し家族を痛め付け、その血が赤い、人間の血であることを確認したのだ。
男の処刑後、その家族は村を出た。
それからしばらくして家族は村が滅んだことを聞かされた。
一度芽生えた疑念は完全に消えることはなく、隣人の些細な一言や行動に過敏に反応し争いを起こし始める。
争いは遺恨を残し更に新しい争いを生む。
そうして村人達は自らの手で互いに殺しあうこととなったのだった。
「男の家族、その一人がガレア君だよ」
カヴァルが続ける。
「だから彼は自分の子供が人ではない人間だとわかった直後、自らその手で切り捨てた。人の心の恐ろしさを知っていたからね」
話が逸れてしまったが、とカヴァルは言う。
「ガレア君が君達に全てを伝えていないのは、彼なりの理由があってのことだろう」
その時、冒険者組合の扉が開き、組合員に連れられ一人の男が入ってきた。




