第10話
突進してきたオークは、引き摺る棍棒を両手に持ち直し、力任せに振り下ろしてきた。
その下を潜り抜けるように反対側へ飛び、すぐに体勢を戻す。
一瞬遅れて地響きが起こり、先程までアッシュのいた場所には地面の欠片が舞っていた。
オークは振り返ると、更に棍棒を振り回した。何度も何度も、アッシュの体を目掛けて振り回す。
アッシュは今、オークの攻撃を避けることだけに集中していた。
一瞬の勝機を逃さない為に、頭上を、眼前を掠める棍棒だけに意識を集中し、必死で避けている。
いつまでも逃げ回る人間に苛立つオークは、怒りから徐々に大振りになっていく。
「ファング！」
攻撃を避けた瞬間、アッシュが叫ぶ。
合図を待っていたファングは猛然とオークの足へと食らいついた。
予想外の場所からの攻撃にオークは一瞬行動が遅れた。
足元を確認し、ファングのいる場所へ棍棒を振り下ろそうとしているオークに向かって、アッシュは体ごと突っ込んだ。
オークの身に纏う毛皮を突き破りアッシュの剣が３分の1程刺さっている。柄頭を腰に当て、全身で突っ込んだ。
しかし、浅かった。分厚い筋肉に阻まれ、アッシュの一撃はオークに致命傷を与えることができなかった。
ファングに向けて振り下ろしてあった棍棒を、今度はアッシュに向けて振り上げる。
慌ててオークの体から剣を引き抜き、後ろに飛ぼうと踏ん張った瞬間、足が滑った。気が付けばそこは、元はゴブリンであった粘液の上だったのだ。
避けられない、そう判断したアッシュはなんとか円盾を体と棍棒の間に滑り込ませる。しかしオークの一撃を盾で受け止めきることができず、アッシュは体ごと吹き飛ばされた。
受け身を取ることもできず地面に叩きつけられたアッシュの意識は昏倒としていた。何が起きたのか理解できていなかった。
たった一度の攻撃が、防いだはずの攻撃が、状況を一変させてしまったのだ。
必死で体を起こそうと踏ん張るが力が入らない。どうやら盾を構えた左腕は完全に折れているようだった。
オークから距離をとろうと這いずるが、なかなか体が前に進まない。
その時、何かが襟首を引っ張り、引き摺って行こうとしている。
ファングだ。
この場を逃れる為に、ファングが必死にアッシュを引っ張っていく。
