第1話
そこは世界に点在する大陸の一つ。
その中心には巨大な湖があり、その湖から伸びる大小の川が大陸中を縦横無尽に伸びている。
北の山脈、南の原生林、西の沼地に、東の砂漠。
それぞれを超え、更に海を渡った遥か先にあるのは蒸気の壁。
遠い昔、彼方より来る流星が大陸の中心へ落ちた時、同時に発生した蒸気の壁は大陸全体を囲み、そこに住む者達ごと外界から完全に閉ざしてしまった。
その頃そこに住んでいた人々はいくつかの部族に別れ、自然の驚異や危険な生物に立ち向かいながらも人間同士では争うことなく暮らしていた。
しかし、流星が落ちた後に現れた一人の男の大陸統一という理想により、人々はいやがおうにも戦いへと巻き込まれていくことになった。
そして現在、大陸はウルカ王国の名の元に統一され、大きな争いのない日々が続いている。
大陸の南方に広がる広大な原生林、そのほとんどは未だ前人未踏の地である。
その森へ入りしばらく進んだ先、そこには流れ落ちる滝を抱く長大な崖がそびえていた。
滝の傍には、縦に大きく裂けた洞窟が口を開けており、入り口の周りにはおびただしい血の跡といくつかの骨が転がっている。
元は自然にできた亀裂が洞窟になったものだったが、今では何者かによって手が加えられ、入り口が広く削り取られており、その両脇には篝火の跡がある。
しかし今はまだ日が高く、そこには何者の姿もない。
しかし、洞窟の正面にある林の中には、生い茂る雑草と木々にうまく身を隠した3つの影が見てとれる。
一つは鎖帷子を着こみ、腰に両刃の片手剣と手斧を吊り下げ、背中に円盾を背負っている黒髪の青年。その格好は戦士のそれだが、馴染んでいるとは言い難かった。
青年は額に浮かぶ汗を拭い、腰を落とし真っ直ぐに洞窟を見据えている。
その隣に立つもう一つの影は同じ年頃の、茶色い髪を伸ばした青年だった。彼は革の鎧を着込んではいるが盾は持たず、武器も腰に細剣を携えているのみだ。
「大丈夫かい、アッシュ」
茶色い髪の青年が黒髪の青年の肩に手を置き尋ねる。
「ああ、大丈夫だ」
アッシュと呼ばれた青年は自分に言い聞かせるようにそう言うと、身に付けた装備を点検して足元にそっと手を伸ばした。
アッシュの足元には成人と変わらないほどの大きさの狼が横たわり、灰色の大きな尻尾をゆさゆさと揺らしている。
狼は耳の後ろをアッシュに撫でられ、気持ち良さそうに目を瞑ると大きな欠伸をした。
「お前はどうなんだ、ディーン」
アッシュは立ち上がり、緊張で固まった体をほぐすと茶色い髪の青年へと尋ねた。
「不安だし、心配だよ」
でもね、とディーンは無理矢理に笑顔をつくって続ける。
「僕達三人ならうまくやれるよ。ね、ファング」
名前を呼ばれた狼はチラリとディーンを見るが、別段興味もなさそうにまた目を瞑るのだった。




