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花子、花子さん?  作者: いわせみつか
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いったい何で?

 トイレの花子さんの新解釈です。

 こういう作業ってスリリングです。

 

 昭和二十年八月十八日。

 戦争が終わって三日目。

 i県の片田舎、m町。

 m町小学校の午後二時ごろにあったことです。

 その学校の六年生、本田花子さんは、学校の同級生、甲子、乙子、丙子の三人に学校の女子便所に呼び出されました。学校は夏休み中で人気はありませんでした。

 花子さんは、この三人にはげしくののしられました。

 甲子乙子丙子のお父さんたちは、同じ日に、赤紙を受け取り、同じ日に、軍隊に入り、同じ部隊に配属され、三人とも南方の同じ島に送られ、同じ日に米軍機に空爆を受けて三人とも戦死したというのです。

 なぜ三人がこのことを知っているかというと、南方から帰ってきた部隊の兵隊さんが三人分の遺骨を持ってきてそれぞれの家に報告をしたからです。その日は・・・八月十四日でした。

 三人は、こんなことになったのはみんな花子さんのお父さんのせいだというのです。

---花子さんのお父さんは町役場で兵事係という仕事をしていたのです。

 兵事係というのは赤紙を配達する仕事です。

「なんであんたのお父さんはあんたの同級生たちの家に赤紙を配ったの?!」

 「しかも三人も、同じ日に」

 「なんとかできなかったの!」

 花子さんはていねいな口調でいいます。

 「わたしの父は、ただ軍から送ってきた赤紙を配達するしかないんです。変更とか手直しはできないんです。あなたたち三人のおとうさん宛に赤紙が来たのは偶然なんです」

 「偶然ですっていっても納得がいかないわ」

 「いったいどうやって赤紙を出すか決めるの」

 「知ってたら教えてよ」

 「くじ引きです・・・」

 三人は激昂しました。

 「くじ引きですって!」

 「馬鹿馬鹿しい」

 「ひとの生き死にをくじ引きで決めるの!?」

 「不公平がないようにするにはくじ引きで決めるしかないでしょう・・・」

 「なにが不公平がないようによ!」

 「兵事係のくせに」

 「兵事係には赤紙が来ないのに。兵事係こそ不公平の極みだわ!」

 そうです兵事係には召集令状-赤紙-が来ない、徴兵されないというきまりがあったのです。

 兵事係が徴兵されると別の人が兵事係になる、しかしその人も徴兵され、また別の人が・・・となるのできりがないです。ですからだれかを兵事係にして定年まで専任してもらうことになっていたのです。当然みんなから嫌われていましたが。

 「お父さんは戦死した」

 「そして日本は戦争に敗けた」

 「ただの犬死によ」

 三人が同時に叫んだ。

 「こうでもしなくちゃ治まらないわ!」

 三人は花子さんの体に毛布を三枚ぐるぐると巻き付けました。そして花子さんの胴体を三か所縄で縛り、頭にすっぽりと布袋をかぶせました。

 そして女子便所の手前から三番目の個室の扉を開きます。当時の学校の便所は汲み取り式です。 

 三人は花子さんを便器の下の穴に、音をたてないようにゆっくりと落しました。花子さんは無言で、ずぶずぶと沈んでいきました。

 「これでいいわ」

 「毛布がし尿を吸って重くなって底に沈むからもう分からない・・・」

 「気持ちがいいわ」

 そして、甲子乙子丙子の三人はこっそりと学校から出ました。


---同時刻、花子さんの家では、花子さんのお父さんとお母さんが仏間で一升びんをはさんで向かい合っていました。

 「花子はまだ帰ってこんのか?」と、お父さんが言いました。

 「はい、お友達に呼ばれて、どこかに行ったきりです」

 「そうか。これは神さまが、ひとり娘の花子だけは生きろと言っているのだろう」

 「いまさら神さまなんて・・・」

 花子さんのお父さんは午前中に、もう兵事係はいらないだろうといって、辞表を出していました。

 「俺は軍の命令とはいえ多くのひとたちに『死を配達』してきた。自分が戦場に行くことは無い身でな」

 「地獄でもついていきますよ」

 「ありがとう」

 そして、花子さんのお父さんとお母さんは、農薬の入った地元名産の白ぶどう酒を茶碗にそそぎ、二人で一気に飲んで死んでしまいました。


 ---みんなどうかしている時代でした。





 続きます。

 すぐは無理ですが、続きます。

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