第8話「忍たちの結束」
ー翌朝ー
ハンスケが用意した朝食を食べ終えたキラウェルは、忍の隠れ里を散歩していた。
自分が住んでいた場所とは違い、古風な雰囲気がキラウェルを癒していく。
「風が…気持ちいいな~」
キラウェルはそう言うと、背伸びをする。
「キラウェルさん、おはようございます」
「ガクさん!」
後ろから声をかけたのは、ガクだった。
どうやらキラウェルは、知らぬ間にガクの家の近くまで歩いていたようだ。
「散歩ですか?」
「はい、昨日はよくまわれなかったので、今日は色々な所を見ようと思いまして」
「そうでしたか…それはいいことですね」
ガクはそう言うと、嬉しそうに微笑んだ。
「兄さん!!」
その時聞こえてきた、少女の声。
「兄…さん?」
キラウェルは、不思議そうに小首を傾げる。
「あ……俺の妹のライです」
「なるほど…妹さんでしたか」
ガクの説明に、納得するキラウェル。
ライという少女は、カンナと同じくの一の格好をしていた。
兄妹だけに、二人の顔が似ていた。
歳は…15~17歳といったところだろうか。
ファラゼロとあまり変わらない年頃のライは、キラウェル見るや否や、走るのをやめる。
「この人?昨日兄さんが言っていた護りたい人って」
ライはそう言うと、キラウェルをじっと見つめる。
「そうだよ」
「ふーん…」
しばらくキラウェルを見ていたライだったが、口を開いた。
「兄さんの彼女?」
「えっ!?」
ライの唐突な質問に、戸惑うキラウェル。
「お…おい!!何を言っているんだライ!」
「そうかなって思って聞いたんだよ?何でそんなに慌ててるの?」
ライは不思議そうに言った。
ライの言っていることは…ごもっともである。
「そんなわけないだろ!?」
「なーんだ…つまんないの」
ガクの言葉に、ライは不満そうである。
「ふふふ」
そんな二人を見ていたキラウェルは、思わず笑ってしまう。
「あ…笑った」
ライは初めて見るキラウェルの笑みに、なぜか驚く。
「どうしたんですか?」
ガクは、キラウェルに尋ねた。
「いえ…私は一人っ子なので、ガクさんを見ていると羨ましいんです」
キラウェルはそう言うと、俯いてしまった。
それを見ていたライは、彼女の手を握った。
「キラウェルさんがここにいる間は…私が妹になります」
「ライさん…」
キラウェルは感激のあまり、涙をポロポロと流す。
嬉し涙は止めどなく溢れ、キラウェルの頬を濡らす。
「キ…キラウェルさん!?わ、私…何かいけないこと言いました!?」
キラウェルが突然泣き出したため、ライは慌てる。
「嬉し涙だから…心配しないでね」
キラウェルは、そう言って微笑んだ。
「やっぱりキラウェルさん…笑ってた方が良いですよ」
ライはそう言うと、キラウェルの手を握った。
「そう…?なら、ここにいる間だけ…なるべく笑おうかな」
キラウェルはそう言うと、また微笑んだ。
その頃ハンスケは、ファルドの従者の一人である、ルスタと会っていた。
何やら重苦しい空気が流れている。
「知らぬと言ったら知らん!!帰ってくれ!!」
ルスタに向かって、怒鳴るハンスケ。
「ハンスケ殿…ここはファラゼロ様の従者でもある、カンナとガクの故郷でもあるのです。万が一という場合がありますので…」
怒鳴るハンスケに、臆しないルスタ。
「知らない!!ブラウン家が追っている女性など…俺たちは会っていない!!」
「ハンスケ殿…しらを切るおつもりですか?」
挑発的に発言するルスタ。
「貴様!!ハンスケ殿は知らぬと言っているのに…しつこいぞ!!」
「よせ!!」
クナイを握りしめる数人の忍たちを、ハンスケは一言で黙らせる。
「とにかく、俺たちは知らないんだ。帰ってくれ」
「……そうですか、では」
ルスタはそう言うと、ハンスケの屋敷から立ち去った。
ルスタが立ち去ったあと、深い溜め息をつくハンスケ。
その様子は、疲れきっているようにも見える。
「ハンスケ殿…大丈夫ですか?」
見兼ねた一人の忍が、ハンスケに近寄った。
「大丈夫だ…。しかしルスタという男…何か証拠があってやって来たのか?」
ハンスケは考えるために、顎に手をあてる。
「ここは隠れ里です。仲間を売るようなことはないはずですが…」
くの一の一人が、眉をひそめて言った。
「とにかく、お前たちはキラウェルさんを全力で護るんだ。何がなんでもな」
ハンスケは、真剣な眼差しで言った。
彼のこの言葉に、周りにいた忍たちは一斉に敬意を示した。
あれこれと考えていたハンスケは、顎に手をあてるのを止めた。
「おのれファルド……貴様はそれでも“不死鳥”を欲するというのか!?」
そう言うハンスケの脳裏に、誰かと話していたキラウェルが浮かんだ。
実はハンスケは、キラウェルが超希少系魔法の一つ、“フェニックスの魔法”を持っていることに気付いていたのだ。
彼女から、魔法の力だけを持っていることを告げられたハンスケは、ブラウン家とシャンクス一族の、数百年…いや、何千年にも及ぶ因縁にも気付いていた。
「希少系を持つ家系が、超希少系に手を出してはならぬという…暗黙の了解があるというのに…」
ハンスケはそう言うと、項垂れてしまった。
「ハンスケ殿…またルスタがやって来たらそのときは…」
「上手く誤魔化して追い返してくれ。しかし…それもどこまで続くかわからないからな、慎重に対応してくれ」
ハンスケの言葉に、周りにいた忍たちは頷いた。
「ファルドよ…どうやら全面的に俺たちは敵対するようだな…」
ハンスケはそう言うと、自分のクナイを握りしめた。
しかしこの時…誰も気づいていなかった。
恐ろしい出来事が起きるということに……
そして“その出来事”が、刻一刻と迫ってきていることに…。