第7話「忍の隠れ里」
ガクの案内で辿り着いたのは、竹林が絶大に広がる場所だった。
キラウェルは、初めて見る竹林に驚いている。
ガクは慣れているのか、さっさと進んでしまう。
「ガクさん…こんな場所に、故郷なんてあるんですか!?」
「とにかくついておいで」
ガクはそれしか言わない。
キラウェルは不満に思いながらも、彼についていくしかなかった。
暫くして、行き止まりにぶつかった。
明らかに、道らしい道すらない。
「ガクさーん…行き止まりですよ??」
キラウェルは、辺りを見渡しながら言った。
「大丈夫です。ついてきてください」
ガクはそう言うと、手を差し出した。
「??」
キラウェルは不思議に思いながらも、ガクの手を握った。
「行きますよ。俺と一緒なら、ちゃんと辿り着けますから」
ガクはそう言うと、キラウェルを気遣いながら歩き始めた。
行き止まりに差し掛かったとき、竹林が一斉に避け始めた。
まるで…ガクを歓迎するかのようだ。
「!?」
これには、キラウェルは驚きを隠せない。
「この道を抜けたら…俺の故郷が見えてきます」
ガクは、前を見つめながら言った。
一体…どんな所なんだろう…。
キラウェルは、胸をおどらせながら思った。
竹林のアーケードを潜り抜けると、小さな集落が見えてきた。
さっきまで通ってきた道は、ガクとキラウェルがその場から離れたら消えてしまった。
「あそこには、特殊な術をかけているんです。忍とくの一しか入れないように」
「魔法…ですか?」
キラウェルは、ガクに尋ねた。
「いや、魔法ではないですよ。忍達の術です」
「区別がわからない…」
不満そうなキラウェル。
「いつかわかる時が来ますよ」
ガクはそう言うと、前を指差した。
「わぁ…」
キラウェルは、忍の隠れ里の光景を見て感動する。
昔ながらの住まいに、沢山の人たちが生活をしていた。
子供もいて、見たことないもので遊んでいる。
中には、葉っぱを舞い上がらせてる男の子もいる。
「ここは…忍の隠れ里です。部外者は基本毛嫌いするんですが、キラウェルさんは特別ですよ」
ガクはそう言いながら、前へと進んでいく。
「私は特別って…どういうことですか??」
キラウェルがガクに尋ねると、彼は立ち止まって振り返る。
「まずは…我らの頭領・ハンスケ殿に会っていただけませんか?詳しい話は、その後です」
ガクはそう言うと、再び前へと進んでいく。
ガクに連れられてやって来た場所は、ハンスケの屋敷だった。
他の忍達が暮らす家とは違い、大きな屋敷だ。
「ここに、ハンスケさんがいるんですか?」
屋敷を見渡しながら、キラウェルが言った。
「そうです。では、中に入りますよ」
ガクはそう言うと、門番に近づいていく。
「ん…?ガクではないか!!」
門番の一人が、嬉しそうに言った。
「ユウゾウさん…お久しぶりです」
ガクも、嬉しそうに言った。
「後ろにいらっしゃるのが、キラウェル殿か?」
ユウゾウはそう言うと、ガクの後ろにいるキラウェルを見つめる。
「…!!」
キラウェルは急にユウゾウが怖くなり、フードを深く被ってしまう。
「そうです。ハンスケ殿に…お話があるのですが」
「カンナから話は聞いている、よし…入れ」
ユウゾウはそう言うと、もう一人の門番と一緒に道を開けてくれた。
ガクは慣れているのか、そのまま進んでしまう。
キラウェルは、怯えながらガクの後をついていった。
ハンスケに仕えている忍に案内され、ガクとキラウェルは大広間にいた。
中央にある囲炉裏が、古風な雰囲気を醸し出している。
「ガク、一時的とはいえ…お帰りなさい」
ハンスケは、微笑みながら言った。
「お久しぶりです、ハンスケ殿」
ガクはそう言うと、一礼した。
「挨拶はほどほどにして…君がキラウェルさんだね?」
ハンスケは、キラウェルに声をかけた。
「…!!!」
まだ怯えているのか、キラウェルはハンスケでさえも警戒している。
「…無理もないな」
苦笑いするハンスケ。
「ハンスケ殿…カンナから話はいっていると思いますが…」
ガクがそう切り出すと、ハンスケは頷いて口を開いた。
「うん…彼女の衣食住の事だよな?それなら心配要らない、俺の離れを提供しよう」
ハンスケはそう言うと、キラウェルに微笑んだ。
「私と関わったら…ハンスケさんは酷いことをされます……」
キラウェルは、俯きながら言った。
これにはさすがに、ハンスケも言葉を失う。
ブラウン家の恐ろしさを、身をもって知るキラウェルだからこその言葉だ。
だがハンスケは、揺るがなかった。
「我ら忍の一族は、ファラゼロ様を主としています。君も、会ったことはあるだろ?」
「えっ…ファラゼロさん!?」
ハンスケの言葉に、キラウェルは驚きを隠せない。
「ファラゼロ様は、この忍の隠れ里へ一度やって来て、当時流行っていた病を治して下さったお方です。その恩として、我らは忍を二名派遣しました」
「それが…カンナさんとガクさんなんですね」
キラウェルはそう言うと、ガクを見つめる。
「あの時はびっくりしたぜ?カンナが慌てて外へ行って、通りかかったファラゼロ様を連れてきて、ファラゼロ様は医学をかじっていたのか、病を治していったんだから」
ハンスケに仕える忍の一人が、自慢気に語った。
「俺とカンナは、忍の隠れ里代表として、ファラゼロ様の従者となったんだ」
「皆さんに…その様な過去があったなんて…」
キラウェルは感激する。
「さて、ガクもキラウェルさんも、長旅で疲れているだろ?ガクは家に戻り、キラウェルさんは俺の離れを使いなさい」
ハンスケの言葉に甘え、キラウェルは忍の隠れ里に滞在することになった。
その日の夜、ハンスケのおもてなしの料理を食べるキラウェル。
先程までの警戒心は少し薄れ、ハンスケたちと会話をするようになっていた。
「なるほど…その様な出来事があったわけですか…」
キラウェルからこれまでの経緯を聞いたハンスケは、そう言いながら腕を組む。
「父も…大切な人たちもみんな…ブラウン家のせいで死んでいきました」
キラウェルはそう言うと、襲撃された日を思い出してしまったのか、涙を流した。
「その…捕らわれているという、お母様とバクというお方は?」
「ブラウン家の地下牢にいます…。今すぐにでも助けにいきたいですが、出来ないのです」
涙を拭わず、キラウェルは言った。
「その気持ちはわかります…しかし、今は情報を集めるべきだと、俺は思います」
「情報…ですか?」
慣れない箸に苦戦しつつ、キラウェルは言った。
「そうです。今は情報が少なすぎます…ブラウン家の屋敷がどこにあるのか、また捕らわれているという地下牢はどこに位置しているのか…まずは調べた方が良いと思いますよ」
ハンスケはそう言うと、優しく微笑んだ。
「アドバイス…ありがとうございます」
キラウェルはそう言うと、少し微笑んだ。
料理を食べ終わったキラウェルは、ハンスケの離れで休んでいた。
あまり離れは使わないから、好きに使って良いと…ハンスケが言ったのだ。
綺麗に敷かれた布団に寝そべり、キラウェルは天井を見上げる。
『何を黄昏ているのだ?』
不死鳥が、覗き込むようにして言った。
「うわわわ!!」
あまりにも唐突だったため、キラウェルは驚いて飛び起きる。
『そんなに驚くことないだろう…』
呆れる不死鳥。
「この……焼いてあげようか!?」
そんな不死鳥の態度にムカついたのか、キラウェルが声を上げた。
『ほう…やれるものならやってみろ!』
キラウェルと不死鳥の間で、激しい火花が散る。
その時、ハンスケが現れた。
「キラウェルさん?いかがなさいました?」
不思議そうに言うハンスケ。
「え!?……えーと…」
何て言えばいいのかわからず、キラウェルは焦る。
「?……今日はもう遅いですから、ゆっくり休んでくださいね」
「は…はい、ありがとうございます」
キラウェルがそう言うと、ハンスケは不思議そうにしながらも立ち去っていった。
そうだった…。不死鳥の姿が見えるのは私だけなんだと、キラウェルは思い出した。
『馬鹿者…俺はお前にしか見えないのだから、人前でむやみに話すな』
呆れている不死鳥。
「話しかけてきたのは…そっちでしょ」
キラウェルは、不死鳥を睨む。
『それもそうだな』
不死鳥はそう言うと、キラウェルの右肩にとまる。
『ところで……これからどうするのだ?』
「これから先のことは…まだ考えていない」
キラウェルがそう言うと、不死鳥はため息をついた。
『わかっていると思うが、ブラウン家の狙いは俺だ…つまり、お前を狙っているということを、決して忘れるなよ』
厳しく言う不死鳥。
「それくらい…わかってる」
キラウェルがそう言うと、不死鳥は彼女の背中に消えていった。
色々なことがあったキラウェルにとって、先のことを考えている余裕など無かった。
自問自答を繰り返す日々…大切な人たちが死んでいく辛さ。
自分は生きていてよかったのかと思うくらい、キラウェルは思い悩んでいた。
再び布団に寝そべったキラウェルは、天井を見上げた。
「先のことなんて…まだわからないよ……」
キラウェルはそう言うと、悔しそうな表情をした。
そしていつの間にか…彼女は眠りについた。




