表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/36

第34話「新たな決意」

ーフォルフ地方・リンカの村ー


翌朝…目を覚ましたキラウェルは、机の上に置かれた手紙を見つめていた。

その手紙は、昨日グラディスから渡されたものだった。


『まさかファラゼロさんの親族が…国を建国するなんてね…』


既に手紙を読んでいたキラウェルは、苦笑いしながら言った。



ファラゼロ直筆の手紙には、親族が国を建国した事や、その場所がかつての…シャンクス一族の住居区だという事…彼の亡き祖父・ルクエルの遺志を継ぐ者たちの集まりだという事が書かれていた。


彼なりに、キラウェルを心配して手紙を書き、グラディスに渡したのだろう。

お陰で…知るべきことを知ることが出来た。


『いずれはハンダル地方に戻らなければならないんだけど…戻っても敵がいるのね』


キラウェルはそう言うと、深い溜息をついた。


『キラウェルさん…?どうしました?』


まだ眠たいのか、目を擦りながら起きるカンナ。


『昨日の手紙の事で、考えていたんです』


キラウェルはそう言いながらベッドから起き上がり、机の上に置かれた手紙を手に取る。


『ファラゼロ様からの手紙ですね…。内容には、私も驚きました』


カンナも、そう言いながら起き上がる。


『カンナさん一つ聞きたいんですが、ファラゼロさんの親族は、母方ですか?それとも父方ですか?』


キラウェルは、カンナに尋ねた。


『母方はまずありえません。父方と考えていいでしょう…。ルクエル様の親族は…まぁ似た者同士と言ったところでしょうか』


カンナは、そう言いながら苦笑いする。


『ありがとうございます』


キラウェルはそう言うと、手紙を再び机の上に置く。


『キラウェルさん、今日の予定は?』


今度は、カンナがキラウェルに尋ねた。


『リンカの村の、占星術師に会いに行こうと思ってます。私はまだ…フェニックスの魔法について、わからない事がありますから』


『そうですか…。なるべく早く戻ってきてくださいね』


カンナはそう言いながら立ち上がり、着替えを始めた。


『わかりました』


キラウェルもそう言うと、カンナに続いて着替えを始めた。




朝食を済ませたキラウェルは、ユキに教えてもらった占星術師の家を訪ねていた。

フェアリークリニックから…それほど遠くはなかった。


『ごめんください!』


キラウェルは、ドアをノックしながら言った。


『いらっしゃい!君がキラウェルさんだね?』


ドアが開かれて現れたのは、爽やかな男性だった。


『貴方が…カズマさんですか?』


キラウェルは、男性に尋ねた。


『そうだよ。俺がこの村の唯一の占星術師、カズマだ。さぁ上がって!』


カズマに促され、キラウェルは彼の家に上がり込んだ。


リビングに通されたキラウェルは、沢山の書類にまず驚いた。

至るとこにある書類には、星の動きが細く記載されている。


『びっくりしてしまったかい?俺は占星術師だから、星の動きとか読み取り、未来を占うのが仕事なんだ』


カズマはそう言いながら、紅茶を淹れたカップをテーブルの上に置く。


『星の動きは…毎回同じなんですか?』


キラウェルは、カズマに尋ねた。


『同じではないよ。むしろ違ってくるんだ…日が変わると星たちの動きも変わるから、俺は毎日星の動きを観察してるんだよ』


カズマはそう言うと、ひとまとめにされた書類をキラウェルに渡した。


渡された書類を見て…キラウェルは更に驚いた。

自分がリンカの村へ来る、ほんの数日前の星の動きのようだ。

確かに彼が言う通り、星たちの動きが違っている。


カズマは、そんなキラウェルの様子を微笑みながら見ていた。

そして彼は、椅子に座った。

書類を読んでいたキラウェルは、慌てて椅子に座った。


『さて本題に入るけれど…君は何について知りたいんだい?』


カズマは、微笑みながらキラウェルに尋ねた。


キラウェルは一から説明を始めた。

故郷を追われ、シンラを目指して旅をしている事、亡き母からフェニックスの魔法を受け継いだはいいが、特性が何なのかわからない事、魔法の力が日に日に増していく不安…普段あまり話せない事を、キラウェルはカズマに隠す事なく話した。


キラウェルが話している間、カズマは頷きながら聞いていた。

そして口を開いた。


『なるほどね…。そういうことか』


カズマはそう言うと、キラウェルの左手を両手で包み込んだ。


『あ…あの、カズマさん?』


カズマの行動に、動揺を隠せないキラウェル。


『大丈夫…俺を信じて』


カズマはそう言うと、瞼を閉じた。

その様子から、彼は魔法の力を読み取ってるようだ。

暫くしてカズマは読み取るのをやめ、キラウェルの手を離す。


『うん……。君の言う通り、次第に魔法の力が増しているね。それは何故だがわかるかい?』


カズマに尋ねられるが、キラウェルはわからないと頭を振った。


『では質問を変えてみようか…。君は怒りで魔法の力を解放しているかい?』


このカズマの問いに、キラウェルは言葉を失った。

彼女の反応を見たカズマは、苦笑いした。


『やっぱりね…。でもそれは…やってはいけない事なんだよ?』


『何故ですか?』


キラウェルに尋ねられたカズマは、深呼吸してから口を開いた。


『よく聞いてね?魔法にもレベルというものがあって、技が解放されるのは、決められたレベルに達してからなんだ。だけど、君の場合は違う…怒りで無理矢理魔法の力を解放してしまってるんだ』


カズマはそこで一度区切ったが、話すために再び口を開く。


『簡単な技だったらまだマシだけど…力が絶大な技ほど、体にかかる負担は大きくなっていくんだ。フェニックスの魔法が、善の心を持つ者にしか扱えないとされている理由が…ここにある。魔法の技に慣れたり、魔法のレベル上げをしないといつか君は…魔法に喰われてしまうよ?』


カズマの言葉に、キラウェルは背筋が凍った。


『今ならまだ間に合う。今のうちに、魔法の鍛錬をしてね?君のためなんだ』


カズマは、そう言いながら微笑んだ。


『はい…ありがとうございます』


今キラウェルは、それしか言えなかった。


『あと特性の事だね。特性とは、魔法それぞれがもつ特殊な能力の事で…魔法によって違うんだ』


カズマはそう言うと、ある本をキラウェルに差し出した。

その本の題名は…何故かハンダル語で書かれている。


『特性による魔法の特徴…しかもハンダル語で書かれてある』


本の題名を見たキラウェルは、驚きながら言った。


『俺は月に一度だけ、ハンダル地方にも行くんだ。この本は、その時に貰った物なんだ…。君にはその本を渡しておくから、特性の事を勉強するといいよ』


『はい、ありがとうございます』


キラウェルはお礼を言うと、再び本に視線を戻した。


『フェニックスの魔法の特性は…自然治癒(しぜんちゆ)といって、怪我が自然と治る力の事なんだ。君が魔法を受け継いだ時、この特性が発動したと思うんだけど…どうかな?』


カズマに言われ、キラウェルは今までの事を思い返した。

グラディスの銃弾を受けた時、そして…ルークとの戦闘時。

確かこの時に、特性と思われる力が発動していた。


『あります!二回ぐらい!』


『怪我…治ってたかい?』


『はい!しかもすぐに!』


キラウェルの言葉を聞いたカズマは一度席を立つと、どこかへと行ってしまった。

でも暫くして、彼は戻ってきた。


『この表は…俺が調べた特性一覧表だよ。中には調べられなかったものや、古代文字のせいで読めなかったものも含まれてる。君にこれを渡そう』


カズマは、何枚にもまとめられた書類を差し出しながら言った。


『凄い…こんな量を一人で…』


キラウェルは、驚きながら言った。


『これも仕事のうちだよ。受け取って』


カズマは、微笑みながら言った。


キラウェルは無言で頷くと、カズマから書類を受け取った。


『あと他に、俺に聞きたい事はあるかな?』


カズマは、キラウェルに尋ねた。


『いえ…今のところはありません』


『そうか、またわからないことがあったら、いつでも俺の所においで。君なら大歓迎だよ』


カズマは、微笑みながら言った。

彼の優しい言葉に、キラウェルも微笑みながら頷いた。




カズマの家をあとにしたキラウェルは、宿屋に戻ってきていた。

昼食を済ませたキラウェルは、宿屋の庭で魔法に慣れるための訓練をしていた。


「フレイム!」


キラウェルは、手のひらの上に焔を出した。


暫くの間、焔はキラウェルの手のひらで揺らめていたが、消えてしまった。


「おかしい…ほんの僅かな時間しか魔法を発動していないのに、こんなにも疲れるものなの?」


息切れをしながら、キラウェルは言った。


カズマが言っていた、魔法に慣れろとは…おそらくこういう事だったのだろう。

キラウェルは改めて、自分がどれだけ魔法を使わなかったか…実感、そして痛感した。


「そういえば…母さんが言ってたな、魔力と体力は同じだって…」


キラウェルは、亡き母・レイウェアがかつて言っていた言葉を、瞬時に思い出した。


「これからの為にも、体力をもっとつけよう!」


キラウェルはそう言うと、再び訓練に励んだ。




夕方になり、キラウェルがまだ訓練を止めないため、心配したカンナが付き添っていた。

初めの頃に比べ、息切れをしなくなったキラウェル。

しかし、まだまだな事は彼女が一番よく知っているため、カンナも黙って見守っていた。


「フレイム!」


再び焔を出すキラウェル。


「キラウェルさん、休憩しませんか?無理は禁物ですよ」


カンナは、キラウェルを心配そうに見つめながら言った。


「それもそうですね…。わかりました、中に入ります」


キラウェルは汗を拭いながら言うと、魔法の発動をやめた。



中に入ったキラウェルとカンナは、真っ先に食堂へと向かった。

食堂には既に、ラルフとアルフォンスが夕食を食べていた。


『キラウェルさん、訓練は終わったのかい?』


フォークを置いたアルフォンスが、キラウェルに尋ねた。


『はい、少しだけ慣れました』


キラウェルはそう言いながら、アルフォンスの隣に座った。


『慣れとくといいぞ?体力がなくては動けないからな』


ラルフは、肉料理を食べながら言った。


ふとキラウェルは、ラルフの左手の甲に魔法陣がある事に気付いた。

その魔法陣の模様から、雷系だということがわかる。


『ラルフさん…その魔法陣は?』


不思議に思ったキラウェルは、ラルフに尋ねた。


『基本系の、雷の魔法だよ。ラルフ家は代々これを受け継ぐんだ』


ラルフはそう言うと、自分の左手の甲をキラウェルに見せる。


随分と長く使用されてきたのか、ラルフの雷の魔法陣は、淡い光を放っている。

フェニックスの魔法以外の魔法陣を、初めて見たキラウェルは驚きを隠せない。


『ラルフ家は、あともう一つ…貴重な魔法を受け継ぐんだが、流石にあの魔法は教えられない。聞いても教えないからな』


ラルフはそう言うと、再び料理を食べ始めた。



『ごめんね?ラルフは、変なところで(かたく)ななんだ』


見兼ねたアルフォンスが、キラウェルに言った。


『いえ…私は大丈夫です』


キラウェルは、苦笑いしながら言った。


『アルフォンスさんは、魔法は持っていないんですか?』


カンナは、アルフォンスに尋ねた。


『あいにくだけど、僕は持ってないな。魔法を持つような家系じゃないからね』


アルフォンスは、苦笑いしながら言った。


『やはり、家系が関係しているのですね』


カンナはそう言うと、スープを飲み始めた。


この様な会話が続いたあと、キラウェルたちはシンラについて話し始めた。

歴史ある場所らしく…本来なら、一般人の立ち入りさえ厳しいというのだ。

その事についてアルフォンスは、シンラを統治している、巫女が原因だと話した。


『シンラにいる巫女様は、神の子とも呼ばれていてね…とても不思議な力を持っている方なんだ』


アルフォンスの言葉の続きを、ラルフが受け継ぐ。


『巫女様には必ず護衛が付いていて、不思議な力を悪用されないために、一般人の立ち入りさえ厳しくしているんだ』



ふとキラウェルは、この巫女様に会えば…×印について何かわかるのでは…と思っていた。

シンラに着いたら真っ先に巫女様に会おう。

キラウェルは、心の中でそう決意した。





夕食を済ませた四人は、ラルフの早めに出発するという発言のもと、早々と就寝してしまった。

カンナはというと、以前キラウェルから貰った手紙を握ったまま眠っている。

どうやらこの手紙は、カンナに宛てた誕生日を祝う手紙の様だ。


余程嬉しかったのか…寝る前まで何度も手紙を読み返していたカンナ。

キラウェルは、そんな彼女を微笑みながら見ていた。


『さてと…私ももう寝なくちゃ。おやすみ、不死鳥』


キラウェルはそう言いながら、ベッドに横になった。

暫くすると、キラウェルの寝息が聞こえてきた。


不死鳥はどこか穏やかに笑うと、キラウェルの背中へと姿を消した。


夜空には…満天の星が輝いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ