第30話「ハルブの街」
『え……手紙……?』
ロビーにある椅子に座っているキラウェルは、驚きを隠せない。
『つい先日送られてきた、差出人不明の貴女宛の手紙です。我々は嫌な予感がし、極秘ルートでこの場所を突き止めました』
一人の警官はそう言うと、キラウェル一通の手紙を差し出す。
事の発端は、彼ら国際警察が民宿に押し寄せたことから始まった。
自分を捕まえに来たのだと思ったキラウェルは、少しだけ警官数名と戦闘をしてしまった。
しかし、警官たちが必死になって自分を止めようとしていると知ると、すぐに戦闘は止めた。
どうやら彼らは、この手紙を渡すためだけに民宿へとやって来たようだ。
確かに今一人の警官が差し出した手紙には、差出人が書かれていなかった。
『ハンダル語で書かれているため、我々には全く理解できないのです…』
一人の警官は、眉をひそめながら言った。
キラウェルは無言で手紙の封を開けると、手紙を目で追い始めた。
しかし…すぐに彼女の顔が青ざめる。
「キラウェルさん?何て書いてあったんですか?」
カンナが、優しくキラウェルに尋ねた。
『お…覚えていろ、地獄の果てまでも……お前を追いかけてやる…』
『ほぼ脅迫文ですね』
一人の警官はそう言うと、キラウェルから手紙を受け取った。
『この手紙が貴女に送られたと言うことは…貴女を狙っている奴が近くに居るということです…。我々は法皇様の命により、ここへやって来ました』
一人の警官の言葉に、カンナとキラウェルは言葉を失った。
フォルフ地方へ逃げてきても、どうやら安心はできないようだ。
『何か心当たりはありませんか?誰かに恨まれているとか、嫌がらせを受けたとか…』
別の警官が、キラウェルに尋ねた。
『恨まれている…思い当たる節は、あります』
キラウェルはそう言うと、フードをとった。
その瞬間に、彼女の顔が露になる。
『や…火傷の痕!?』
別の警官が、驚きの声を上げる。
周りにいた他の警官たちも、驚いた表情をしている。
『私に、この傷を負わせた人は…この世にはもういません。ですが…部下がいるのなら、恐らく部下の誰かが犯人だと…』
キラウェルはそう言うと、再びフードを被った。
『それは考えられますね…貴女方は、これからどちらへ行かれる予定ですか?』
一人の警官が、キラウェルに尋ねた。
『“ハルブの街”ですが…』
キラウェルは、控えめにそう言った。
『わかりました。貴女が無事に“シンラ”へ辿り着けるよう、我々が護衛致します』
一人の警官は、微笑みながら言った。
法皇は、カンナとキラウェルが“シンラ”を目指す理由も、彼らに話していたようだ。
『お願いします』
カンナはそう言うと、深々と頭を下げた。
その様子を見ていたキラウェルも、彼女に続いて頭を下げた。
『では、早速出発しましょう。パルミザックからハルブは近いので…そんなに時間はかからないはずです』
カンナとキラウェルは、彼らの護衛を受けることに決めた。
あんな脅迫文じみた手紙が送りつけられたため、護衛をお願いするのは無理もない。
もしも複数人でキラウェルが襲われた場合、カンナ一人では太刀打ちできないからだ。
部屋に一度戻った二人は荷物をまとめると、フロントでチェックアウトを済ませると、国際警察が待つ外へとやって来る。
いつの間にか人数は減り…あの二人の警官のみが残り、二人を待っていた。
『他の警官たちは、もしもの場合を考えて各地に配置させました。一部の者たちには、怪しい人物がいないか調べるよう、指示を出してあります』
一人の警官はそう言うと、キラウェルの前に右手を差し出す。
『俺の名は…アルファード・ラルフ。ラルフでいい』
『よ…よろしくお願いします』
キラウェルはそう言うと、ラルフと握手を交わす。
『僕はアルフォンス・エル・アーガイルだよ、よろしくね』
別の警官…アルフォンスも、キラウェルと握手を交わす。
『行くぞアルフォンス』
『了解しました』
この会話からすると、二人はどうやら長年組んでいるコンビようだ。
ラルフたちに付き添われながら、カンナとキラウェルはパルミザックを出発した。
陽が高く昇る頃、四人は印が二つあったハルブの街へ辿り着いた。
至るところには…何故だか双子の銅像が設置されている。
赤レンガの建物が建ち並ぶ街並みに、キラウェルは目を輝かせながら見渡している。
『このハルブの街には、双子の伝承が数多くあるんです』
アルフォンスは、カンナとキラウェルに言った。
『双子…?この街に、何年かに一度双子が生まれる…とか?』
カンナは、不思議そうに言った。
『それは違うな』
ラルフはそう言うと、一つの銅像の前に立った。
その銅像には、“ポルックスとカストール”という、文字が刻まれている。
『このハルブの街は、“双子座”の伝説が数多くあってな…。この銅像に彫られた名前は、双子の兄弟の名前だ』
ラルフはそう言うと、カンナとキラウェルに向き直る。
『“ポルックス”が弟で、“カストール”が兄だ。弟は神で不死の身だが、兄は人間だったとされている』
ラルフからの説明を受けたキラウェルは、彼がそうしたように、銅像の前に立った。
双子の兄弟の銅像は、仲が良いのか楽しげに話しているようにも見える。
『何故、そのような違いが現れたんですか?』
カンナは、ラルフに尋ねた。
『それは諸説あってはっきりとわかっていないんだ…』
ラルフの言葉の後を、アルフォンスが継ぐ。
『でも有力なのが、二人は神と人間の間に生まれた子だからだ…という説だよ。証拠とか、詳しく書かれた書物が見つかっていないから、何とも言えないけどね』
アルフォンスはそう言うと、苦笑いをした。
ふとキラウェルは、不死鳥がやたらと騒がしいのに気づく。
言葉を発していないが、仕草でわかった彼女は、左手で背中に触れる。
―不死鳥…どうしたの?―
テレパシーで、キラウェルは不死鳥に尋ねた。
―“ポルクス”と“カストル”が近くにいる…―
不死鳥も、テレパシーで応えてくれた。
―それは…守護神の名前?―
キラウェルは不死鳥に尋ねるが、不死鳥からの返答はなかった。
少し不満気なキラウェルだったが、カンナたちの会話に加わるため、背中を触るのをやめた。
『確かこの街には、この伝説に詳しい家系がありましたよね?』
アルフォンスは、ラルフに尋ねた。
『居ることはいるが…あのじいさんたちは気難しい性格だからな…話は後日でもいいのではないか?』
苦笑いするラルフ。
『それもそうですね』
そう言うアルフォンスも、苦笑いをしている。
『会ってみたかったです…』
二人の会話を聞いていたカンナは、少しだけ寂しそうに言った。
『私も同じです…』
キラウェルも、少しだけ寂しそうに言った。
『今はとにかく…×印のある場所の確認だけだから、あとででも話は聞けるはずだよ?次は、“リンカの村”へ向かわないと…』
アルフォンスがそう言って、前を向いたときだった。
『いっ…………!み、耳が痛い!!』
突然キラウェルが、両耳を手で押さえてその場に倒れこんでしまった。
『キラウェルさん!?』
カンナは、慌ててキラウェルに駆け寄る。
『何…?この煩い音は…?どこから??』
耳を押さえながら、キラウェルは辺りを見渡す。
『音…だと?』
『僕たちには…何も聞こえないけど…』
ラルフとアルフォンスは、不思議そうにキラウェルを見つめている。
『っ…!近づいてくる…けど、その度に耳が痛い…!』
相当痛いのか、キラウェルは涙目になっている。
『近づいてくる?何がだ?』
『わ…わからないです…』
キラウェルの言葉に引っ掛かったラルフは、辺りを見渡す。
そして、懐から銃を取り出した。
『姿を現しやがれ……そこにいるのはわかってんだよ!』
ラルフはそう言うと、銃を発砲した。
しかし銃から放たれたのは…弾丸ではなく、光の玉だった。
『弾丸…じゃない!?』
カンナは、驚きながら言った。
ラルフが銃から放った光の玉は、何もないところで突然破裂した。
その瞬間に…黒い物体が姿を現した。
『ダークウルフ!夜にしか出ない魔物が、何故昼間に出るんだよ!?』
アルフォンスは、驚きの声を上げる。
『“光の銃”を持ってきといて正解だったな…』
ラルフはそう言うと、気を失ったダークウルフの首を掴んで持ち上げる。
『ラルフさん、“光の銃”とは何ですか?』
カンナは、ラルフに尋ねた。
『俺の家系しか触れない、特殊な銃なんだ。闇の気をもつ魔物には、効果覿面だ』
ラルフはそう言うと、“光の銃”を懐にしまう。
キラウェルはというと、初めて見る魔物に目が見開いている。
ラルフがダークウルフを大人しくさせたため、キラウェルの耳の痛みもなくなっていた。
『ラルフ…まだ闇の気を感じるよ』
アルフォンスは、辺りを警戒しながら言った。
『キラウェルさんも…手伝ってくれませんか?俺一人だと、随分と時間がかかってしまうので』
『もちろん、いいですよ』
キラウェルは、微笑みながら言った。
彼女の返答を聞いたラルフは、再び懐から“光の銃”を取り出し、銃を構える。
キラウェルも、魔法を発動させるために左手を翳す。
『ダークウルフに直接攻撃は全く効かないが、魔法攻撃や特殊攻撃はかなり効く。もし遭遇したときは…覚えておくといいよ』
アルフォンスは、キラウェルに言った。
『アルフォンスさん、ありがとうございます』
キラウェルも、微笑みながら言った。
ラルフが、“光の銃”の引き金に手をかけたと同時に、黒いもやみたいなものが、複数揺らめいて現れた。
そして再び、キラウェルにあの耳の痛みが襲う。
「いっ……!」
思わず、ハンダル語で話すキラウェル。
『痛いか…?どうやら、魔法所有者には…この魔物は天敵のようだな』
キラウェルを心配するラルフ。
『い…いえ……もう慣れてきました…』
キラウェルはそう言いながら、左手から炎をだす。
『さっさと居なくなってよ!…………フレイム!!』
キラウェルがそう言うと同時に、彼女の左手から炎が放たれた。
キラウェルが放った炎は、一体のダークウルフに当たり、その一体は消滅した。
『何だってこんなに居るんだよ!?』
“光の銃”を乱射しながら、ラルフは言った。
彼が放った光の玉は、複数のダークウルフに当たって消滅していく。
『フレイムウェーブ!!』
全体攻撃技を繰り出し、ダークウルフを一気に倒していくキラウェル。
だが、どんなにラルフとキラウェルが、頑張ってダークウルフを倒していっても、次から次へと黒いもやから現れてくる。
キリがない状態だった。
『ラルフ!これではキリがない!一度逃げよう!』
アルフォンスがそう言って、ラルフとキラウェルを促そうとした…その時だった。
『流星群…』
彼らの後ろから、落ち着いた老人の声が聞こえてきた。
老人が言うと同時に、空から沢山の隕石が降ってきた。
隕石は次々とダークウルフに当たっていき、一気に消えていく。
『メテオ…』
別の老人も、言葉を発した。
今度は、さっきの隕石とは比べ物にならないくらいの、大きな隕石が空から降ってきた。
その隕石は、黒いもやごと消してしまう。
隕石が降りやんだ時には、ダークウルフは全て消滅していた。
『大丈夫かね…お若い者たちよ』
最初に言葉を発した老人が、キラウェルたちに声をかけてきた。
『は…はい。ありがとう、ございました』
キラウェルは、老人にお礼を言った。
『貴方は一体…』
カンナは、驚きながら言った。
『わしたちは…ただの通りすがりの老人じゃ。気にするでない』
老人はそう言うと、ほっほっほっと笑った。
二人の老人の登場に、呆気に取られるキラウェルたち。
ふと、別の老人がキラウェルを見て口を開いた。
『お主は…悲しい運命を背負っているのう』
『え…?運命、ですか?』
別の老人の言葉に、キラウェルは不思議そうな表情をする。
『何れわかるであろう…。わしが言う“運命”が何をさすのか…』
別の老人は、優しく微笑みながら言った。
『は…はあ…』
キラウェルは、少しだけ困惑している。
『あれだけ動いたんだ…今日は泊まるとよい。小さな宿しかないが、十分休めるじゃろ』
老人は、微笑みながら言った。
『ありがとうございます…。では、言葉に甘えさせていただきます』
アルフォンスが、老人たちにお礼を言った。
『礼には及ばんよ…では、わしらはこれで失礼する』
二人の老人は、歩いてこの場を去っていった。
『あの老人たち…何者なのですか?』
キラウェルは、カンナに尋ねた。
『わかりませんが、ラルフさんとアルフォンスさんは…何か知っていますね…。あとで聞いてみましょう』
カンナの言葉に、キラウェルは無言で頷いた。
『さて、我々も行きますか…』
アルフォンスのこの言葉で、四人は宿へ向かっていった。
それから数時間後が経過し、辺りはすっかり暗くなった。
男女別で部屋をとり、隣同士の部屋にそれぞれが入る。
四人は既に食事と入浴を済ませており、自由時間となっている。
アルフォンスとラルフは、明日も早いからと早々に就寝してしまった。
カンナも…疲れが出てきたのか、布団に入った途端に眠りについてしまった。
しかし、ただ一人だけ…キラウェルは寝付けなかった。
「何でだろう…全く寝られない…」
キラウェルはそう言いながら、布団から起き上がった。
窓からは綺麗な三日月が見えている。
晴天なのか、雲一つない夜空が広がり、満天の星たちが輝いていた。
「……外に出よう…」
キラウェルはそう言うと、掛けてあったローブを羽織って外に出た。
「うわあ……綺麗……」
空を見上げたキラウェルは、瞳を輝かせながら言った。
『やっと話せる…』
不死鳥が、そう言いながら現れた。
「不死鳥…ごめんね?中々話し掛けられなくて」
キラウェルは今までのことを思い、不死鳥に謝った。
『何故キラウェルが謝るのだ?お前は何も悪いことは…していないだろう?』
「それは…そうなんだけど」
キラウェルはそう言うと、近くにあったベンチに腰かける。
「……なんとなく、謝りたかった」
『そうか…』
不死鳥は、キラウェルの近くにとまる。
「綺麗だね…星が」
『ああ…そうだな』
キラウェルがそうしているように、不死鳥も空を見上げている。
「あれ……?あの洞窟はなんだろう?」
ふとキラウェルは、村の外れにある洞窟に視線を移した。
『行ってみるか?』
「そうする」
キラウェルはそう言いながら立ち上がると、謎の洞窟へと向かっていった。
「しまった…ランプ持ってきてない。仕方ない……フレイム!」
キラウェルはそう言うと、右の人差し指から、炎を出して当たりを照らした。
「あれ……これ、壁画だ」
辺りを見渡すキラウェル。
人差し指から炎が出ているため、照らされている範囲は少ないが、キラウェルは洞窟の壁一面に、絵が描かれていると瞬時にわかった。
「これは…隕石が描かれているのかな?岩のようにも見えるけど…」
辺りを見渡しながら、キラウェルは奥へと進んでいく。
「逃げる人々……あ!双子が描かれている!」
キラウェルは、最深部の壁画を見て立ち止まった。
「この双子……隕石から人々を守ってるのかな…?」
ふとキラウェルは、石碑があることに気付いた。
近寄ってみると…やはり古代文字で彫られていた。
「“双子の神々よ……宙の力を司るそなたたちならば、いずれ訪れる暗黒時代の、封印の要となることであろう。我々の想いを受け継ぎ、どうか他の封印の要と共に…世界を救ってほしい…。光の力のご加護が…あらんことを…。 光を司る神・テラ”」
キラウェルは石碑を読み終えると、再び双子が描かれている壁画を見る。
「これは……テラ様の手紙?この石碑と双子…一体何の関係が?」
キラウェルはそう言うと、別の石碑に視線を移す。
所々が崩れてしまっているが、文章だけは綺麗に残されている。
「“僕たちは二人で一つ…これからも二人で共に生きていこう。僕は兄だから…弟を守るんだ。だから離れるんじゃないぞ? カストール”」
キラウェルが言い終えると、不死鳥が口を開いた。
『弟の言葉もあるぞ』
不死鳥にそう促され、キラウェルはもう一つの文章を読み始める。
「“僕は弟だけど…弱いけど、お兄ちゃんがいてくれるから安心だ。いつもお兄ちゃんは僕を守ってくれるから。どんなときでも…お兄ちゃんは僕の味方だ…だから、僕たちはずっと一緒だよね? ポルックス”」
キラウェルは読み終えると、不死鳥を見た。
「この文章…双子が幼いときのものだわ」
『まあ…お前の言葉を聞く限りそうだろうな』
「もしかしたら…“リンカの村”にも、何か残っているかもしれない!」
キラウェルは興奮ぎみにそう言うと、文章を暗記し始める。
『キラウェル、そろそろ戻った方がいいのではないか?』
不死鳥はそう言いながら、キラウェルの右肩にとまった。
「そうだね…宿に戻ろうか」
キラウェルはそう言うと、もう一度双子の壁画を見てから、洞窟をあとにした。
翌朝、カンナよりも早く目を覚ましたキラウェルは、ラルフとアルフォンスと共に、宿の食堂で朝食を食べていた。
その時…カンナが起きてきた。
『随分疲れていたようだね…大丈夫かい?』
アルフォンスは、カンナに尋ねた。
『はい…お陰さまで、疲れも吹っ飛びました』
カンナはそう言うと、キラウェルの隣に座る。
そして彼女は、キラウェルと同じ料理を注文した。
『朝食を食べて休憩したら…次は“リンカの村”へ行くぞ。あそこにも、色々な伝承が残っているから、何かわかるかもしれない』
ラルフはそう言うと、コップに入っている水を一気に飲み干す。
『あともう少しですよ。だから…頑張ってください!』
アルフォンスは、微笑みながら言った。
『はい!』
二人の言葉に、キラウェルは元気よく言った。
その後、カンナも朝食を食べ終えたため、休憩をはさんだ四人はハルブの街を出発しようと、荷造りを開始した。
入り口で待ち合わせし、四人で出発する予定だったのだが…キラウェルが中々階段から下りてこない。
『おかしい…30分は経つぞ?』
懐中時計を見つめながら、ラルフが言った。
『僕、様子を見てきますよ!』
アルフォンスがそう言って、階段を駆け上がろうとした…その時だった。
『しつこいんだよあんたは!!!』
怒りに満ちたキラウェルの叫び声が、二階から聞こえてきた。
その声と重なるように、物音もしている。
『何事だ!?』
ラルフはそう言うと、声がした方を見る。
すると、黒装束の者たちと…キラウェルが戦闘をしていた。
まだ宿の中にいるため、彼女は本来の力を出しきれていないようだ。
『あいつらは…一体何者なんだ!?』
『あれは…ルスタの部下たちです!』
見慣れた服装に、カンナは驚きながら言った。
『報復しに来たのか…?』
アルフォンスも、驚きを隠せないようだ。
「埒が明かない!!すみません!窓ガラス割ります!!」
キラウェルはハンダル語でそう言うと、裏庭側の窓ガラスを思いっきり割って外へと飛び出した。
それに続くように、ルスタの部下が次々と外へと飛び出していく。
カンナが、キラウェルを救おうと走り出そうとしたが、それをラルフが止めた。
『何故止めるんですか!?』
カンナは、驚きながらラルフに言った。
『彼女のためだ…一切の手出しは不要だよ』
ラルフの目は、とても厳しいものだった。
ラルフたちが会話をしている間にも、キラウェルはルスタの部下たちと戦っている。
しかし…どうみても、ルスタの部下が劣勢である。
『彼女はもう大丈夫だ……だから、この戦いを見守ろう』
ラルフがそう言うと同時に、キラウェルとルスタの部下たちの戦いが終わった。
彼女は相変わらず“峰”で戦ったようで、ルスタの部下たちは踞っている。
『今のうちに!』
アルフォンスが、キラウェルに声をかけた。
彼女は“白夜”を鞘に収めると、荷物を持って走り出した。
『このまま突っ切って、リンカの村へ行くぞ!』
走りながら、ラルフが言った。
ふとキラウェルは、あのルスタの部下たちは…どうやってフォルフ地方へやって来たのだろう…と、不思議に思っていた。
確か関所を通るには、通行書が必要だったからだ。
まさか…門番の人たちをなぎ倒してきたのだろうか?
はたまた、脅して入れてもらったのだろうか?
今となってはわからないが、キラウェルは警戒することにした。
『迷いの森を抜けることになるが…仕方がない』
アルフォンスは、遠くの森を見つめながら言った。
キラウェルは、アルフォンスの視線の先を見つめてみる。
その森は、太陽が当たらない…樹海のような場所のようだった。
『二人とも気を付けてくれ…迷いの森はその名の通り、人を迷わせるからな』
ルスタの言葉に、カンナが生唾を飲んだことは…言うまでもない。
程無くして、迷いの森に辿り着いたキラウェルたち。
やはり太陽が当たらない場所で、まだ明るいのに森の奥は真っ暗である。
『行くぞ…』
ラルフの言葉で、四人は迷いの森へと入っていくのであった。