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第28話「威厳の法皇」

ーセルネア法皇国首都・パルミザックー


国の中心街に到着したカンナとキラウェル。

バスジャック犯は、この先にあるという警察署に連行されていった。


「さて…法皇様がいらっしゃる聖堂へご案内いたします」


上級警官はそう言うと、二人の歩幅を合わすように歩き始めた。

カンナとキラウェルもそれに続いていく。


しばらくして見えてきたのは、立派な大聖堂であった。


「ここに…法皇様はいらっしゃるんですか?」


キラウェルは、上級警官に尋ねた。


「もちろんです。さあ…中へどうぞ」


上級警官はそう言うと、二人を中へ案内した。


聖堂の中を歩いている最中にも、上級警官は口を開いた。


「いいですか、法皇様が顔を上げろと言うまで、お二人は決して顔をあげないでくださいね?」


上級警官のこの言葉に、カンナとキラウェルは無言で頷いた。


しばらく歩いていると、大きな扉が見えてきた。

あの奥に…法皇がいるようである。


「俺が話しかけますので、お二人は無言でお願いします」


上級警官はそう言うと、口を開いた。


『上級警官のルイ…只今戻りました。法皇様…謁見されたい方々をお連れしました』


扉越しで、彼…ルイはそう言った。


『うむ。入るがよい』


扉の中から、威厳のある声が聞こえてきた。


「では…開けますね」


ルイはそう言うと、大きな扉を押し開けた。


ゆっくりと扉が開いていき、奥にある立派な椅子には、法皇が座っている。

白くて長い口髭を生やした法皇は…まさに国の象徴とも言える。

キラウェルはルイの言葉を思い出して、フードをとった。


ルイが法皇の前に膝まついたので、カンナとキラウェルも彼のあとに続く。


「法皇様…キラウェル・J・シャンクス様と、付き添いのカンナ様をお連れしました」


ルイは、頭を垂れている二人を見ながら言った。


「ご苦労であった…。キラウェル殿、カンナ殿よ…顔を上げるがよい」


法皇の声がいつになく優しい。


カンナもキラウェルも、恐る恐る顔を上げた。

初めて見た法皇は、威厳はあるものの…とても優しく二人を見つめていた。


「わしがこの国の法皇じゃ…。キラウェル殿のことは十分承知しておる、ここまでよく来なさった」


法皇はそう言うと、優しく微笑んだ。


「は…はい…あの、ありがとうございます…」


緊張のあまり、法皇の顔が見れていないキラウェル。


「緊張しておるのかい?わしがそんなに怖いかね?」


法皇は、優しくキラウェルに尋ねた。


「いえ!滅相(めっそう)もございません!!」


キラウェルは、勢いよく言った。


「ほっほっほっ…面白いお方じゃのう」


法皇は、そんなキラウェルを見て笑った。


優しい法皇を見たキラウェルは、いつの間にか緊張が(ほぐ)れていた。

そして今度はカンナが、口を開いた。


「あの…法皇様、我々は“シンラ”を目指しています。我が主との約束ゆえ、果たさなければならない使命なのです…」


「ふむ…何故(なにゆえ)シンラを目指すというのかね?」


法皇は、不思議そうにカンナに尋ねた。


カンナは意を決して口を開いた。

キラウェルが、超希少系魔法のひとつである、“フェニックスの魔法”を所有していること、その魔法を付け狙う奴らがいるため、彼らが恐れる“シンラ”を目指していること…カンナは、包み隠さず全てを法皇に話した。


カンナから話を聞いた法皇は、しばらくの間腕を組んで考えていたが、程無くして口を開いた。


「そういう事情があったのかい…。しかしシンラは最北東に位置している場所ゆえ、かなりの距離がある」


法皇は、口髭を触りながら言った。


「承知の上で目指しております…。“ハルブの街”を抜けて“リンカの村”へ向かい、そこから更に北東に進むことは、私は理解しております」


カンナのこの言葉に、再び腕を組む法皇。

しばらくして…彼は口を開いた。


「良かろう。ハルブの街とリンカの村へは、わしの方から一報入れるとしよう。お二人とも長旅で疲れておるじゃろ?今日は宿に泊まるとよい」


法皇はそう言うと、ルイの方を見る。


『ルイや、すぐに宿の手配を』


『承知しました』


ルイはそう言うと、謁見の間から立ち去っていった。


ふと法皇は、キラウェルの顔をずっと見ている。

どうやら…火傷の痕に気付いたようだ。

彼はキラウェルに手招きをして、彼女を呼んだ。


「法皇様…?どうなさったんですか?」


キラウェルは、不思議そうに言った。


「この火傷…酷いことをする奴もいるようじゃのう…」


法皇は、キラウェルの火傷の痕に触れながら言った。


「え…?」


小首を傾げるキラウェル。


「わしは希少系の一つ…“時空間の魔法”を所有しておってな。特性の力で、思念を読み取ることが出来るのじゃ」


法皇はそう言うと、優しく微笑んだ。


「特性……」


そういえば、母さんも同じことを言っていたな…。

と、キラウェルはふとそう思った。


「特性が何なのか知りたければ、リンカの村へ行くとよい。あそこは占星術師がたくさんいるからのう」


「はい…ありがとうございます」


キラウェルは、微笑みながら言った。




その後ルイが戻ってきて、宿屋に案内してくれるというので、彼のあとをついていくカンナとキラウェル。


「今日泊まっていただく宿屋は…こちらになります」


ルイはそう言うと、ある民宿の前で立ち止まった。


彼が案内してくれた民宿は、歴史があると思わせる建物だった。

栄えた国にしては、とても風情がある。


「ここの宿屋は、色々な書物を兼ね備えているから、暇なときにでも目を通してみるといいよ」


「はい…わざわざ、ありがとうございました」


キラウェルは、お辞儀をしながらルイにお礼を言った。


「いえいえ…俺は当然のことをしたまでです。では、ゆっくり休んでくださいね」


ルイはそう言うと、寮に戻ると立ち去っていった。


「さあキラウェルさん、私たちも中に入りましょう」


「はい」


カンナとキラウェルは、木造の民宿の中へと入っていった。



民宿の中に入ると、大勢の宿泊客で賑わっていた。


「凄い人ですね…フロントはどこでしょうか?」


辺りを見渡すカンナ。


「カンナさん、あれではないですか?」


そう言ってキラウェルが指さす方向には、数人の女性が宿泊客に鍵を渡している。

どうやら…あそこがフロントのようだ。


カンナがフロントに近づいていく。

その後ろを、キラウェルは黙ってついてきた。


フロントにいた一人の女性が、カンナに気付いた途端に、鍵を差し出した。


『ルイさんから話は聞いております。既に部屋はとっておきましたので…』


『ありがとうございます』


カンナはそう言うと、女性から鍵を受け取った。


『では…ゆっくりとお休みください』


女性は、そう言いながらお辞儀をした。


「どこの部屋ですか?」


キラウェルは、カンナに尋ねた。


「310号室ですね」


鍵に刻まれた数字を見ながら、カンナは言った。


「行きましょうよ!」


「そうですね」


二人はお互いの顔を見て、どちらからともなく笑い出した。

この二人に…とても強い絆が結ばれているようだ。

ふと思い出したかのように、キラウェルは鞘に入れたままの“白夜”をカンナに差し出した。


「カンナさん…やっぱり“白夜”はお返しします」


「え!?何故ですか?」


キラウェルの行動に、カンナは驚きを隠せない様子だ。


「家宝を私が持っていたら…いずれは泥棒呼ばわりされます。それだけは嫌なので…」


キラウェルはそう言ううちに、どんどん顔を俯かせる。


「それは…キラウェルさんが持っていてください」


カンナはそう言うと、差し出された“白夜”をキラウェルの方へと押し戻す。


「でも…!」


「私なんかより、キラウェルさんが持っていた方がいいです。それにキラウェルさんは、物を大切にしている方ですし」


カンナは、微笑みながら言った。


「だから…“白夜”はキラウェルさんが持っていてください」


カンナは、諭すように言った。


「…わかりました」


カンナにそう言われ、キラウェルは渋々承諾した。


「部屋に行きましょう?長旅は体に毒ですからね」


カンナに促され、キラウェルは用意された部屋を目指して歩き始めた。




310号室に着いたカンナとキラウェルは、部屋から見える景色に言葉を失った。

さすがはセルネアの首都だけのことはあり、どこもかしこもライトで道や道路が照らされていた。


すっかり辺りは夜が近くなっており、空には一番星が瞬いている。

キラウェルは窓にへばりつき、気色を眺めている。


「カンナさん!外が明るいですよ!夜なのに!」


はしゃぐキラウェル。


きっとキラウェルは、外灯を初めて見たのだろう。

彼女からすれば、外灯で照らされたパルミザックは、十分明るいことだろう。


「外灯といって…暗くなると自動で()くんですよ」


カンナは、微笑みながら言った。


「へぇー外灯か…。私はずっとランプを使っていたので、初めて見ました」


キラウェルはそう言うと、再び外灯を窓から見つめる。


ふとカンナは、テーブルの上に置かれた新聞に目が止まる。

先程会った…法皇のことについて、書かれているようだ。


「“我らが法皇様、シンラを含む山沿いの村や里に支援することを発表”…か。」


記事を見つめながら、カンナは言った。


「カンナさん、その大きな紙は何ですか?」


不思議そうに、キラウェルはカンナに尋ねた。


「これは新聞と言いまして、国の政治や市町村のことが書かれているんですよ」


カンナはキラウェルを見ながらそう言うと、再び新聞に視線を戻した。


「何だか私…知らないことばかりですね」


キラウェルは苦笑いしながら言うと、近くにあった椅子に座る。


「これから知っていきましょうよ…今からでも遅くありません」


カンナは、微笑みながら言った。


「そうですね」


キラウェルも、微笑みながら言った。


「今日はもう休みましょう。“ハルブの街”へ行くにはいつ頃がいいか…また後で考えましょう」


「はい!」


その後カンナとキラウェルは、夕食と入浴を済ませ、温かい布団に潜り込んだ。

カンナは本を読んでいたのだが、キラウェルは相当疲れていたのか、すぐに眠りについてしまった。


そんなキラウェルを見ていたカンナは、そっと彼女の頭を撫でた。


「今はゆっくり休みましょう…キラウェルさん。貴女は頑張ってきた人ですから」


そう言うカンナの表情は、とても優しいものだった。


カンナにも眠気がやってきて、彼女は電気を消してから眠りについた。


そして…月日が流れた。

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