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第23話「新たなる旅立ち」

キラウェルとルスタの一戦から4ヶ月後、秋の気配が感じられるようになったサイファ村では、平穏な生活が続いていた。

診療所で治療を続けていたキラウェルも、やっと今日包帯が取れた。


「やっぱり火傷の痕は残ってしまっているね…」


キラウェルの包帯を外し終えたカインが、申し訳なさそうに言った。


「カインさん、謝らないでください。私は大丈夫ですから」


キラウェルはそう言うと、近くにあった手鏡で自分の顔を見る。


手鏡に映されたキラウェルの顔には、痛々しい火傷の痕がくっきりと残っていた。

顔の左側に残ったこの痕は、額から頬の辺りにかけてあった。


「これでも、まだまだ軽傷のうちだ。中には、全身火傷で皮膚の何%かは焼失してしまう人もいるからね」


「過去に…そのような患者さんを()たことが、あったんですか?」


キラウェルは、カインに尋ねた。


「ああ…。ここから遥か東にある島国でな。今でも鮮明に思い出せるよ」


「そうだったんですか…」


キラウェルはそう言うと、手鏡をカインに渡した。

カインは手鏡を受けとると、自分の鞄の中に入れた。


「さて…俺たちはシンラに戻るが、キラウェルさんはこの後どうするのかね?」


鞄を持って立ち上がったカインが、キラウェルに尋ねた。


「私はシンラを目指しています…。もしかしたら、いつの日か会えるかもしれませんね」


キラウェルはそう言うと、優しく微笑んだ。


「そうか…また会える日を、楽しみにしているよ」


カインも、優しく微笑んでそう言うと、処置室をあとにした。


「よし…私も、そろそろ行かなくちゃ」


キラウェルはそう言って立ち上がると、処置室から出た。




廊下を歩いていたキラウェルは、壁に寄り掛かるガクを見つける。

どこか黄昏ている彼は、キラウェルがいるのにも気付かないようだ。


「ガクさん?」


「…………」


キラウェルは呼び掛けてみるが、やはりガクからの返事がない。


「…………不死鳥、突っついて」


『了解した』


そう言った不死鳥は、何故だか楽しそうである。


不死鳥はキラウェルにしか視えないため、ガクにはその存在を確認することは出来ない。

不死鳥がそーっと近付いていく様を、笑いを堪えながら見つめるキラウェル。

狙いを定めて……不死鳥は思いっきり突っついた。


「!!??………痛てぇ!!!!!」


右頬に突然感じた痛みに、ガクは思わず叫ぶ。


キラウェルはとうとう、我慢が切れて笑いだした。


「キ…キラウェルさん!わ…笑わないでくださいよ!!」


ガクは、顔を真っ赤にしながら言った。


「だ…だって…ガクさんの…さっきの顔が……あはははは!!」


「笑わないでくださいよ!」


更に顔を真っ赤にさせるガク。


そんな二人の様子を、ファラゼロとカンナは優しく微笑みながら見守っていた。


「あんなに楽しそうなキラウェルさん…私、初めて見ました」


優しく微笑みながら、カンナが言った。


「俺もだよ…あんなに笑うキラウェルさんを見たの」


ファラゼロも、優しく微笑みながら言った。


「あの笑顔が…いつまでも続くと良いですね」


「あぁ…そうだな」


そんなファラゼロとカンナをよそに、キラウェルとガクは戯れていた。



荷物をまとめ終わったキラウェルとカンナは、サイファ村の裏門に来ていた。

ファラゼロ達が話し合いをした結果、キラウェルの同行者はカンナとアシュリーに決まった。


「ここからの方が、北の関所は近い…気を付けて行くのだぞ」


サイファ村の村長が、キラウェルにそう声をかけた。


「ありがとうございます」


キラウェルはそう言うと、村長と握手をした。


「キラウェルさん…元気でね」


シルクが涙を浮かべながら言った。


「シルクさん…いろいろお世話になりました」


キラウェルは、シルクに向かってお辞儀をした。


「ファラゼロさんは…一緒には行かないのですか?」


アシュリーが、ファラゼロに尋ねた。


「俺はもう少しここにいるよ…頃合いを見て家に戻る」


「わかりました」


ファラゼロの言葉に、アシュリーは頷いた。


「ではアシュリー…キラウェルさんを、必ずやシンラへ送り届けるのだぞ」


「はい、任せてください!」


アシュリーは、元気よくそう言った。


しかし、一人だけキラウェルから離れようとしない人物がいた。


「キラウェルおねえちゃん…行っちゃいやだよ~!」


泣きながら、キラウェルにしがみつくマロン。


「マ…マロンちゃん…」


流石にキラウェルも、マロンのこの行動に戸惑っている。


「マロンっ!キラウェルさんが困っているでしょ?ダメですよ!」


シルクが、マロンを叱った。


「い~~や~~だ~~!!」


更に泣いて(わめ)くマロン。


「仕方ないわね…」


シルクはそう言うと、無理矢理マロンをキラウェルから引き離した。


「うわああああん!!いやだああああ!!」


泣き叫ぶマロン。


「いい加減にしなさいっ!マロン!!」


シルクは再び叱るが、マロンは更に泣き叫んでらちが明かない。


そんな様子を見兼ねたキラウェルが、シルクに抱っこされ泣き叫ぶマロンに近付いた。


「マロンちゃん…」


キラウェルの声に、すぐに泣き止むマロン。


「ぐすっ…………」


すすり泣きをするマロン。


「大丈夫だよ…また会えるから」


「ほんとう?」


「もちろん、だから…もう泣くのは止めよ?お母さんも困ってるよ?」


キラウェルが優しくそう言うと、マロンは無言で頷いた。


「もう泣かないって…約束できる?」


「うん…」


「よしっ!良い子だね~」


キラウェルが、そう言いながらマロンの頭を撫でる。

マロンは(たちま)ち笑顔になった。


「キラウェルさん…本当にごめんなさい…」


シルクが、キラウェルに謝った。


「シルクさんが謝ることではないですよ」


キラウェルは、優しく微笑みながら言った。


「キラウェルさん…もうそろそろ行きましょう」


諭すように、カンナが言った。


「はい、わかりました」


キラウェルはそう言うと、鞄を持った。


「「「「さようなら!」」」」


サイファ村の人々やシルクたちが、キラウェルたちに手を振って見送る。


「皆さん!本当にありがとうございました!また…どこかで会いましょう!」


キラウェルも、手を振りながら言った。


三人は村長たちに見送られながら、サイファ村を去っていった。




場所は変わり、ブラウン家の屋敷である。ルスタを捕まえろという命令を下されたグラディスが、ファルドの所へと戻ってきたようだ。


「ファルド様…只今戻りました」


「ご苦労だったな…で、ルスタは捕まえられたのか?」


ファルドは本を読んでいるのか、グラディスを見ずに言った。


「いえ…あいつ、自ら命を絶ったそうです」


グラディスのこの言葉に、ファルドは遂に顔をあげた。


「自害した…だと?」


信じられないという表情のファルド。


「遺体もあればこちらで引き取ろうとしたのですが…既にガクやファラゼロ様たちの手によって、埋葬された後でした」


最後に、申し訳ありませんと言って…グラディスはファルドに謝った。


グラディスは嘘をつくような男ではない…。

長年ファルドと一緒にいたのだから、今グラディスが言っているのは本当の事なのだろう。

しかしどうにも信じられないファルドは、再び口を開いた。


「あいつのことだ…また火神(かがみ)の魔法を暴発させて、暴れまくっているとばかり思っていた…」


「俺も同じことを考えていました…しかしファルド様、ルスタが自害したというのは、事実であります」


グラディスのこの言葉を聞いたファルドは、読んでいた本を机の上に置いて腕組をした。

何やら、考え事をしているようだ。


「グラディス…」


ようやく口を開いたファルド。


「はい、何でしょうか?」


「レイウェアの所へ行こう…」


「えっ!?」


驚くグラディス。


「確かめたいことがあるんだ…」


真剣な眼差しのファルドに、グラディスは何も言えなくなってしまった。



ファルドとグラディスは、ランプを持って地下牢へと来ていた。

もちろん…レイウェアがいる牢屋の前に、二人は立っていた。


「誰かと思ったら…ファルドじゃない。何か用?」


そう言うレイウェアだが、どこか(やつ)れたように見受けられる。


「レイウェア…お前には娘がいるな?」


「!!」


ファルドの言葉に、レイウェアの表情が強張(こわば)る。


「この俺が…気付いていないとでも、思っていたのか?」


「…………」


娘・キラウェルの事を訊かれていると直感したレイウェアは、黙秘を続ける。


「ルスタが自害した理由はただひとつだ…“魔法の力”のみ所有する者に負けたからだ。お前らシャンクス一族は、親しい者に魔法を継承させると云うからな…」


ファルドはそう言うと、レイウェアの前にしゃがむ。


「お前の娘は今…この付近にいる。俺の使者を甘く見るなよ」


今まで黙っていたレイウェアだったが、遂に口を開いた。


「ファルド…貴様!キラウェルには手を出すな!!」


レイウェアはそう言うと、我にかえった。


「そうか…お前の娘は、キラウェルというのだな?」


どうやらレイウェアは、ファルドによって誘導尋問されていたようだ。


「卑怯だぞ!ファルド!!」


レイウェアは、怒りに満ちた声で言った。


「黙れレイウェア!」


ファルドはそう叫んで、レイウェアを一喝した。


「“フェニックスの魔法”が手に入るのも…時間の問題だな。あれを手に入れたら…全てに復讐してやる!!」


このファルドの言葉を聞いたレイウェアは、恐ろしいものを見たとばかりに身震いする。

彼の隣にいるグラディスも…複雑な表情をしている。


―そしてファルドは、あの高笑いをしたー




さて、場所を北の関所付近へと戻す。

ここでは今まさに、キラウェルたちが関所の見張りと会話をしていた。


アシュリーからバレッタを借りたキラウェルは、髪を上げていた。これも、印象を変えるための作戦である。


「なに?火傷の治療だと?」


一人の見張りが、不思議そうに言った。


「はい、私の父が有名な薬師なので、診てもらおうと…」


アシュリーはそう言うと、キラウェルの背中を押す。

それを合図に、キラウェルは顔を上げた。


「うわっ…」


「これは酷い火傷だ…」


見張りたちは、キラウェルの顔を見て驚く。


「お願いします、彼女と付き添いの方も私の知り合いです…通してあげてください!」


アシュリーは頭を下げながら言った。


「怪しい者でもないし…良いだろう。アシュリーよ、タクト殿によろしく伝えといてくれ」


見張りはそう言うと、道を空けてくれた。


「ありがとうございます!」


カンナが、見張りたちにお礼を言った。


「タクト殿はトップクラスの薬師だ…よく診てもらうと良い」


「はい…そうします」


キラウェルは、頷きながら言った。


ふと彼女は何を思ったのか、視線をサイファ村がある方角へと向けた。

そして…大きな屋敷が視界に入ってきた。

キラウェルが不思議そうに屋敷を見ていると、見張りの一人が口を開いた。


「あぁ…あの屋敷は、ブラウン家の豪邸だよ。立派だよな」


「ブラウン家の…豪邸?」


顔が強張るキラウェル。


カンナは、余計な事を言わないでと…言わんばかりの表情をしている。


「ああそうだ。あそこに、ブラウン家の者達が住んでいるんだ」


「ファルドが……あそこに…」


キラウェルは、呟くように言った。


「とにかく急ぎましょう!始まりの街・ファルミスまでは距離がありますし、陽が高く昇る頃には着きたいので!」


アシュリーはそう言ってキラウェルを引っ張るが、彼女はその場から動かない。


「キラウェルさん?」


カンナがそう言うと同時に、キラウェルは突然走り出した。


「待ってください!!」


カンナは慌てて、キラウェルのあとを追いかける。

アシュリーもあとを追うとしたが、カンナに、先にシンラへ行くよう諭され、黙って従った。


「母さんが…あそこにいる…」


キラウェルは、走りながらそう言った。


カンナも走りながらキラウェルを追うが、なかなか距離が縮まらない。



この時、物語が大きく動こうとしていた……。

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